――翌年、五月。

 郊外にある静かな霊園。
 ここには朝野家代々のお墓がある。

 同じ日に休暇を取り、私達は三人で墓参りに訪れた。白菊や百合の花を花立てにさし、線香に火を点す。

 ヨチヨチ歩きで、一歳九ヶ月になった健も、私達の真似をしてお墓で両手を合わせた。

「父さん、母さん……。久しぶりね。健もすくすく成長してるわ。いつも見守ってくれてありがとう」

 三人で手を合わせていると、背後から靴音がした。

「姉貴、早かったんだね。お義兄さん、お久しぶりです」

「良、元気だったか?」

「良、久しぶりね。また身長伸びたんじゃない?凛々しくなって、もう逞しい青年ね。お父さんとお母さんが生きていたら……どんなに喜んだことか……」

 弟の良は、今年二十歳になった。
 両親の死後、私と良は離れて暮らした。私は病弱な朝野の祖父母と東京で暮らし、当時十歳だった良は北海道の母方の伯母夫婦に引き取られ一緒に暮らした。

 現在は北海道の医大に進学し、独り暮らしをしながら医師を目指して勉学に励んでいる。

 ◇◇◇

 ――十年前――
 
 国内線の飛行機墜落事故。

 エンジントラブルで山麓に墜落し爆発炎上、二百九十八名もの乗客が死亡したあの悲惨な事故。生存者は僅か一名だった。

 あの日も……
 月の綺麗な夜だった。

 私は高校のキャンプに参加し、一人だけ飛行機には乗らなかった。

 両親と弟は、北海道の母の実家へ戻る予定だった。

 夜になり降り出した雨が、炎上していた飛行機の火災を消火したけど、発見された遺体は無残なもので肉体の形は留めていなかった。

 山の麓にある閉校した小学校の広い体育館に並ぶいくつもの棺。鼻を突くなんとも言い難い異臭。僅かな遺品を頼りに肉親の遺体を探す。

 黒く焦げた肉体のどこを見て、親族だと誰が認識出来るというの?

 棺の中には体の一部やDNA鑑定する事しか出来ない無残な遺体がいくつも横たわっていた。

 ――ここは地獄だ……。

 十六歳の私には、そう思わずにはいられなかった。

 せめてもの救いは……
 この地獄から、弟の良が奇跡的に生還したことだった。