――病院火災から一週間以上が経過し昏睡状態だった保が、やっと目を覚ました……。

「保!保!」

 保は私に視線を向け、問いかけた。

「こ……ど……も……たちは?たすか……ったのか?」

 朦朧とする意識の中でも、保は子供の無事を一番に気にかけていたんだ。

「うん。大丈夫だよ。二人とも軽症だから安心して」

「そう……か……。よかっ……た。いてて……。体中が……痛むな。俺……また……勲章が増えた……のか?」

「うん。いっぱい増えたよ」

「そっか……俺……どれくらい寝てたんだ?」

「一週間……昏睡状態だったんだよ」

「昏睡状態か……。俺……死にかけたのか?ずっと……不思議な夢を……見てたよ。雫の……夢も見た」

「保は何度……も……死にかけたんだよ。どんなに心配したか……。それなのに……私の夢を見ていたの?」

 涙が溢れ言葉が続かない……。

「雫を抱きたくて……俺は戻ってきたんだ。いててっ……」

 保は手を上げようとしたが、骨折しているため上げることが出来ない。

「無茶はしないで。骨折してるんだから」

「そっか……。体中が痛くて……動けないから、雫の涙を拭いてやれないな。ごめん……。雫……ごめん。家族を助けてやれなくて……ごめん」

 保の意識は混乱しているようだった。
 『家族を助けてやれなくてごめん』とは、きっと八年前の飛行機墜落事故のことを言っているに違いない。

 保があの飛行機に拘わっていたことは、保の父親から事情を聞いて知っている。あの事故で両親を亡くした私に、保は言えなかったんだよね。

「何を言ってるの……。あの事故の責任は保にはないよ。骨折が治るまで……私が保の手や足になるからね」

 私は保の胸に……
 顔を埋めて泣いた。

 薬指のリングが重なる。

「いってぇ……。雫、今までで一番痛いよ」

「痛みがあるのは生きてる証拠だよ。我慢しなさい。保は火災現場で四人の命を助けたんだからね」

「……何それ。俺が救助したのは三人だよ。男の子と女の子と雫……。他にも要救助者がいたのか?」

 私は保の手を取り、お腹にあてる。
 保はキョトンとしたまま、私を見つめた。

「……雫?」

「要救助者はもう一人いたんだよ。……よかったね、パパが助けてくれたんだよ。保……ありがとう」

 私はお腹の赤ちゃんに、優しく声をかけた。

「えっ?パ……パパ……?パパって?雫……まさか!?」

「保、ありがとう。夏には……新しい家族が増えるから、楽しみにしてて」

「……雫、子供が出来たのか?」

「うん」

 涙が溢れて止まらない。
 保の目にも、涙が浮かぶ。

「やったー!……っ、いってぇ……。手が上がらない……」

「骨折してるんだから。動かさないでって言ってるでしょう。保が頑張ったから、私がご褒美を上げる」

「えっ……?ご褒美?」

 私は身を乗り出して、保の唇にそっとキスを落とした。

「早く元気になってね……保」

「おぉー、雫……もう一回……」

「えっ?やだ……。ここは病院の個室だよ」

「個室だからいいだろう。誰も見てないし」

 子供みたいにキスをねだる保に、私は可笑しくて泣きながらも笑みが零れた。

 涙を溢しながら、保にキスをする。

 ――こんな……幸せが……

 また戻ってくるなんて……

 思ってもいなかった。


 ――保とまた逢えるなんて……

 保とまた話ができるなんて……

 保とまた……こうして触れ合うことができるなんて……。

 この奇跡を……神に感謝した。

 ◇◇◇


 ――それから五ヶ月。

 保は骨折の治療とリハビリで、長期入院を強いられた。