「保、お手柄だね……。幸ちゃんは大丈夫だって。たっくんも大丈夫だよ。ほら……わたしだっ……て……ピンピンしてる」

 保が……涙で霞んで見えない。

「早く……起きなよ。私達……結婚して、まだ一ヶ月だよ。保……なに……やってるの?私を一人ぼっちにしないって、約束……したよね」

「保……」

「保………」

「た……も……つ……。起きてよ……」

 保に縋り……涙を溢す。

「お願い……私を一人にしないで……」

 人の気配がし、振り向くと保の父親と怜子だった。

「雫さん……。保は……?」

 私は首を横に振る。

「大丈夫だよ。雫ちゃん、保は……不死身なんだから。こんなことで死んだりしない……。だって保は奇跡の少年なんだよ」

 怜子が……泣いている……。
 声を上げて……泣いている……。

 父親が目頭を押さえた。

「奇跡の……少年?」

「保から聞いてないの?八年前、北海道で飛行機墜落事故があったでしょう。保はその時だって、奇跡的に助かったんだから……」

 保が……
 あの事故の唯一の生存者……?

 ――ピッ………ピピッ………ピッ……。

 心電図の波形が乱れ……その音が次第に弱くなる。

 アラーム音が鳴り止まない。

 看護師である私には……
 この状態が……何を意味しているのか……

 医師の説明を受けなくても……
 理解できた……。

「保……しっかりしてよ!保……」

 私は声を張り上げ保の体に縋り付く。

 涙で視界が霞み、保の姿が揺らいで見えた。


 ――……ピッ……ピッ……


 ――ピ―――――――――……………


「せんせい……」

 心肺停止……。
 絶望的な状況に、私は医師の顔を見上げる。

「電気ショック早く持って来て!……奥さん、下がって……下さい」

 医師が電極パットを保の胸にあてる。


 ――ボンッ……

 保の体が大きく波打った。


 ――ピ―――――――――…………


「もう一回、下がって下さい」


 ――ボンッ……


 ――ピ―――――――――…………


「いやぁ――!たもつ――……!」

 私は狂ったように泣き叫んだ。

「いやよ、保、いかないで――……」

 私の悲痛な叫び声が……ICUに響く……。

「電圧を上げて、もう一回。奥さん下がって下さい」

 保に取り縋る私を茜が引き離す……。

 私は手を伸ばし……声の限りに保の名前を叫ぶ。

 ――保……

 嫌だよ……。

 ――保……

 死なないで……。


 ――保……

 まだ言ってない事があるの……。

 一番大切な事……

 まだ……言ってないよ……。


 ――私……

 赤ちゃんができたんだよ……。

 私のお腹には……

 赤ちゃんがいるんだよ……。


 ――保の……

 赤ちゃんだよ……。


 ――保……

 ――保………………。



 ――ボンッ……


 三度目の電気ショックの音が……

 静かなICUに……

 鳴り響いた……。