「わかった……。ナースステーションで車椅子を借りてくる」

 茜が病室を出て行った。
 一人になった私は、冷静さを取り戻す。

 ――保が……ICU……?

 何かの間違いに決まっている……。

 保が……昏睡状態だなんて……。

 そんなこと……信じない。
 

 ――だって……私を……

 抱き締めてくれたじゃない。

 力強い腕で、抱き締めてくれたじゃない。

 ◇

 茜に介助され車椅子に乗り、私はICUに向かった。

 ――ICUのドアが開く……。

 そこは……生命を維持するための機械音だけが響いていた。幾つものカーテンに仕切られたベッド。白いカーテンが揺れ、医師や看護師が慌ただしく動いている。

 人工呼吸器が装着され、白い包帯に被われていても、その重症患者が保だとすぐにわかった……。

 心電図の音が、私の鼓膜に響く……。

 ――ピッ……ピッ……ピッ……。

 保の隣のベッドには幸が眠っていた。
 酸素マスクはしていたが、剛が身を挺して守ったために、命に関わるような外傷は見られなかった。

 幸の両親が無言で私に頭を下げる。

 私は車椅子を動かし、保の側へ行く……。
 保の顔は別人のように、腫れ上がっていた。

 自発呼吸も出来ず、頭部にも手足にも白い包帯が巻かれ、その容態から重篤であると察知した。

「た……も……つ?なに……やってるの?」

 私は保の手を握る。
 あったかい掌……。
 でもゴツゴツした指はピクリともしない。

 沢山の管に繋がれた体。
 生命維持装着により、保は生かされていた。

「たも……つ……起きなよ……」

「中居保さんの奥様ですか?」

「……はい」

 執刀医が私に容態を説明してくれた。

「爆風で全身を強くうち、複雑骨折をしていますが、奇跡的に内臓損傷はしていませんでした。全身打撲、腕や足の骨折、頭部外傷はありますが、幸い脳内出血はありません。ただ複雑骨折による出血多量、体の血液の二分の一以上失血し輸血しましたが、未だに少量の出血が見られ、出血性ショックを起こしています。
 手術は無事に終えましたが、昏睡状態であることにかわりはありません。術後二十四時間乗り越えられるかどうか……。大変危険な状態です。
 彼が助けた子供さんは大丈夫ですよ。軽い熱傷は見られますが命に別状はありません。念のため一晩ICUで様子を見ているだけですからね」

「……そうですか。ありがとうございました」

 医師の説明を聞き、私は保に視線を向けた。