【雫side】

 私は保の腕の中から、他の隊員に背負われ、薄らぐ意識の中で、また小児科病棟の中へ入っていく保の背中をぼんやりと見つめた……。

 背負われたまま非常階段を降りると、すぐに救急車に乗せられた。

「雫ー!よかった。無事でよかった……」

「たっ……く……んは?」

 人を掻き分け駆け寄ってきた茜に問う。

「大丈夫だよ。たっくんも意識レベルはあるから。救急車で和晃大学付属病院へ搬送されたから心配いらないよ」

「……そ……う」

 拓が無事だと聞き、安堵した私はそのまま意識を失った。

 ◇

 ――どれくらい時間が経ったのだろう……。

 ――目覚めたら……
 そこは、和晃大学付属病院だった。

 白い病室、ブルーの寝間着……。
 腕には、点滴の管……。

 頭の奥がズキズキと痛み、鉛のように重い……。

「雫……気がついた?」

 優しい手のぬくもりに触れ、視線を上げた。
 茜がベッド脇の丸椅子に座り、私の手を握っていた。

「たっくんは?」

「大丈夫だよ。ご両親が付き添ってる。もう心配いらないよ」

「そう……よかった。幸ちゃんは?……保と剛さんは?」

 私の問いかけに、茜は目を伏せ口を閉ざした。

「剛は大丈夫。打撲と軽い熱傷だから、今、処置してる」

「よかった。保は……?幸ちゃんは……?」

「保さんは……」

 茜が苦悩に表情を歪ませ涙ぐんだ。

「茜……?保は……無事だよね?」

 私はふらふらする上体を起こし、茜の服を掴んだ。

「茜……教えて!保はどうしたの!」

「保さんは………今……ICU……」

「I……C……U……?」

「幸ちゃんもICUなんだ……」

「どうして……。茜……!どうして……!」

 う……そ……だよ……ね?

 保が……
 ICUだなんて……

 嘘だよね……。

「あのあと……調理場で火災によるガス漏れが発生して爆発が起きたの……。詳しい原因は今調査中らしいわ。小児科病棟の子供用トイレに、逃げ遅れた幸ちゃんがいて、保さんは……救助中に吹き飛ばされて……、全身打撲と複雑骨折をしていて、脚からの出血が酷くて……。ショック状態を起こして……」

「それ……で……」

「手術は終わったけれど昏睡状態で……、数日が……山だって……」

「嘘よ……。そんなの嘘よ!だって、保は私とたっくんを助けてくれたのよ……!もう大丈夫だからって、そう言ったのよ!」

 私は錯乱していた。
 茜はそんな私を強く抱き締めてくれた。

「雫、あなたは看護師でしょう。落ち着きなさい」

「茜、ICUに連れて行って」

「無理よ……雫。……雫は妊娠してるんだよね。さっき検査でわかったの。どうしてそんな大事なことを黙っていたの。今、安静にしないと赤ちゃんも危なくなるんだよ」

「……わかってる。保は私の夫なの。……お願い、茜……私を保のところへ連れて行って」

「……雫」

「保はまだ知らないの……。赤ちゃんができたことも知らないの……」

 私は腕から点滴を引き抜いた。シーツに点滴がポタポタと落ち、腕に血が滲んだ。