【保side】
いつものように俺は消防署で勤務していた。
午後一時からは、近くの小学校の避難訓練に行く予定だった。それまでは待機だ。
突然、署内のサイレンが鳴る。
【緊急出動、火災発生、火災発生。全車輌直ちに、出動せよ!出火場所、つつじヶ丘、橘総合病院】
「え?つつじヶ丘?橘……総合病院……?」
俺は一瞬息をのむ。
隣にいた剛が、目を見開き俺を見た。
鳴り止まないサイレンの音だけが鼓膜に響き、動くことが出来ない。
時間が……止まった気がした。
「おい!保、大変だ!」
動けない俺に、剛が声を掛ける。剛も動揺を隠せない。署員が出動のために立ち上がる。
「……うそ……だ……ろ?」
「保、何をしている!出動だ!」
――火災発生……!?
雫の……勤務している病院……!?
「保!急げ!」
「……あ、あぁ」
俺は防火服を身につけ、消防車に飛び乗る。消防車はけたたましくサイレンを鳴らす。近隣の消防署からも、消防車が出動した。
俺は……薬指につけた結婚指輪に視線を落とす。
――雫……大丈夫だよな……。
雫……。
橘総合病院付近には線路もあり道幅も狭い所があった。病院近くの路側帯には路上駐車の車が何台かあり病院になかなか近づけなかった。
「くそっ……早くしろよ!」
やっと橘総合病院に到着した時には、病院前の駐車場には大勢の野次馬と、避難していた看護師や患者で溢れていた。
次々と消防車が到着し、そのあとを救急車が何台も連なる。
重傷患者は他の病院への搬送が始まり、病院の前は騒然としていた。
病院の窓から吹き出す黒煙と赤い炎……。
築年数の古い病院だったため、火の回りも早い。
「皆さん危険ですから、下がって下さい」
「放水開始ー!」
合図とともに、はしご車からも一斉に放水が始まる。
だが火の勢力は一向に衰えない。
俺は周囲を見渡す。
――雫……どこだ……。
どこにいる……!
雫の姿を目視で捜したが、子供たちと一緒にいた看護師の中に雫の姿を見つけることが出来ない。
「全員避難されてますか?逃げ遅れた人はいませんね?」
人混みを掻き分け、茜が俺に走り寄った。
「中居さんーー!」
「茜ちゃん、よかった、無事だったんだね」
茜の姿を見つけ、雫も無事だと安堵する。
「中居さん、雫が……。雫が……中へ……」
「えっ……?」
一瞬、その言葉の意味が理解出来なかった。
「子供を探しに……中へ入ったまま出て来ないの。雫と六歳の男の子が一人、名前は拓くん。それと三歳の女の子が一人。名前は幸ちゃん……」
「火災現場に……雫が?う……そ……だろ?」
窓から吹き出す赤い炎は、上階をものみ込もうとしていた……。
――しずく……。
俺は迷うことなく隊長に駆け寄る。
「隊長!子供二名と看護師一名が院内に取り残されています。救助に向かいます!」
焦る気持ちを抑え、隊長に指示を仰ぐ。
「火災現場に逃げ遅れた人がいるのか?それは確かか?」
「はい。許可をお願いします!」
「隊長!俺も行きます!」
剛が隊長に志願した。
俺達は八名の隊員と共に、燃え盛る病院の中に入ることになった。
フェイスシールド内臓のヘルメットを被り、エアーパックや呼吸マスク、活動センサー等の装備を整える。
二人ずつ五チームに別れ、他に取り残された者がいないか確認し救助する。
非常階段を上り、俺は剛と五階へ向かった。
小児科病棟の中はすでに煙が充満し、院内の中央階段には炎が迫っていた。
いつものように俺は消防署で勤務していた。
午後一時からは、近くの小学校の避難訓練に行く予定だった。それまでは待機だ。
突然、署内のサイレンが鳴る。
【緊急出動、火災発生、火災発生。全車輌直ちに、出動せよ!出火場所、つつじヶ丘、橘総合病院】
「え?つつじヶ丘?橘……総合病院……?」
俺は一瞬息をのむ。
隣にいた剛が、目を見開き俺を見た。
鳴り止まないサイレンの音だけが鼓膜に響き、動くことが出来ない。
時間が……止まった気がした。
「おい!保、大変だ!」
動けない俺に、剛が声を掛ける。剛も動揺を隠せない。署員が出動のために立ち上がる。
「……うそ……だ……ろ?」
「保、何をしている!出動だ!」
――火災発生……!?
雫の……勤務している病院……!?
「保!急げ!」
「……あ、あぁ」
俺は防火服を身につけ、消防車に飛び乗る。消防車はけたたましくサイレンを鳴らす。近隣の消防署からも、消防車が出動した。
俺は……薬指につけた結婚指輪に視線を落とす。
――雫……大丈夫だよな……。
雫……。
橘総合病院付近には線路もあり道幅も狭い所があった。病院近くの路側帯には路上駐車の車が何台かあり病院になかなか近づけなかった。
「くそっ……早くしろよ!」
やっと橘総合病院に到着した時には、病院前の駐車場には大勢の野次馬と、避難していた看護師や患者で溢れていた。
次々と消防車が到着し、そのあとを救急車が何台も連なる。
重傷患者は他の病院への搬送が始まり、病院の前は騒然としていた。
病院の窓から吹き出す黒煙と赤い炎……。
築年数の古い病院だったため、火の回りも早い。
「皆さん危険ですから、下がって下さい」
「放水開始ー!」
合図とともに、はしご車からも一斉に放水が始まる。
だが火の勢力は一向に衰えない。
俺は周囲を見渡す。
――雫……どこだ……。
どこにいる……!
雫の姿を目視で捜したが、子供たちと一緒にいた看護師の中に雫の姿を見つけることが出来ない。
「全員避難されてますか?逃げ遅れた人はいませんね?」
人混みを掻き分け、茜が俺に走り寄った。
「中居さんーー!」
「茜ちゃん、よかった、無事だったんだね」
茜の姿を見つけ、雫も無事だと安堵する。
「中居さん、雫が……。雫が……中へ……」
「えっ……?」
一瞬、その言葉の意味が理解出来なかった。
「子供を探しに……中へ入ったまま出て来ないの。雫と六歳の男の子が一人、名前は拓くん。それと三歳の女の子が一人。名前は幸ちゃん……」
「火災現場に……雫が?う……そ……だろ?」
窓から吹き出す赤い炎は、上階をものみ込もうとしていた……。
――しずく……。
俺は迷うことなく隊長に駆け寄る。
「隊長!子供二名と看護師一名が院内に取り残されています。救助に向かいます!」
焦る気持ちを抑え、隊長に指示を仰ぐ。
「火災現場に逃げ遅れた人がいるのか?それは確かか?」
「はい。許可をお願いします!」
「隊長!俺も行きます!」
剛が隊長に志願した。
俺達は八名の隊員と共に、燃え盛る病院の中に入ることになった。
フェイスシールド内臓のヘルメットを被り、エアーパックや呼吸マスク、活動センサー等の装備を整える。
二人ずつ五チームに別れ、他に取り残された者がいないか確認し救助する。
非常階段を上り、俺は剛と五階へ向かった。
小児科病棟の中はすでに煙が充満し、院内の中央階段には炎が迫っていた。