――十二月二十四日。クリスマスイブ。

 その日、私達は夜勤あけだった。
 正午まで仲良く仮眠を取り、午後から区役所へ二人で出掛けた。

 区役所の戸籍課。
 一番奥の席に、保の父親は座っていた。

 戸籍課の課長である保の父親は、区役所では貫禄たっぷりに腰掛けている。怜子と一緒にいる時に見せる表情とは、明らかに異なる。

 父親は私達の姿を見つけると、頰を緩め窓口へ出て来た。

「おめでとう。保、雫さん」

「ありがとう。親父」

「ありがとうございます。宜しくお願いします」

 笑顔で握手を交わし、二人で婚姻届にサインをする。

「中居雫。なんか変な感じだね。自分じゃないみたい」

「そっか?俺は全然違和感ないけどな」

 保が婚姻届を眺めながら、嬉しそうに笑った。

 区役所の皆さんにも笑顔で祝福され、私達はこの日晴れて夫婦になった。

 ◇

 マンションに戻ると、保がポケットから小さなケースを取り出した。

「挙式は年内無理だからさ。でも結婚指輪はつけて欲しいんだ」

 ケースからマリッジリングを取り出し、私の薬指にゆっくりと嵌めた。

 プラチナのリングがキラキラ光っている。

「ほら雫、俺の指にも……」

 差し出された保の薬指に、マリッジリングを嵌める。保がにっこり笑って私を抱き締めた。

「雫……愛してるよ。もう……一人じゃないよ。ずっと一緒だから。お前の傍にずっといるからな」

「うん……」

 感極まり、涙が滲んだ。
 保が優しく唇を重ねた。

「リングの交換と誓いのキスも滞りなく終わったし。次は夫婦となった初めての共同作業、新婚初夜を……」

「えっ…?やだ。まだ昼だよ」

「そうだよ。カーテン閉めれば、室内は夜だろ?」

「何を言ってるの。カーテン閉めても昼だよ」

「小さなことは気にしない。太陽も気を利かせて雲に隠れてくれるさ。俺の魔法で夜にかえてみせる」

「……ぷっ、そんなに都合よくいかないよ」

「雫、愛してるよ。世界で一番愛してる」

「……保。私も……愛してるよ」

 ――大好きな保の腕の中で……。

 大好きな保のぬくもりに包まれ、家族になれた喜びの涙を溢す。

「泣いてるのか?」

「保と結婚できて、嬉しいから……」

「俺も……雫と結婚できて嬉しいよ」

 人は嬉しくても涙を溢し、幸せすぎても不安になるんだね。

 どうか……

 この幸せが……

 壊れることなく、永遠に続きますように……。

 ◇

 ――翌々日、私は保に病院まで送ってもらった。

 保は時間が許す限り、必ず私を病院まで送迎してくれた。

「行ってきます」

「おい、こらっ、忘れ物」

「あっ……ごめん」

 保が私に優しいキスを落とす。
 夫婦となった、幸せな朝……。

 保に見送られ、ロッカールームに急ぐ。白衣に着替えナースステーションに行くと、みんなの笑顔と歓声が響いた。

「結婚おめでとう!」

 婦長や同僚看護師が、一斉に祝福してくれた。花束を渡された私は、狐に摘ままれたみたいにキョトンとする。

「……どうして結婚したことを知ってるんですか?」

「実はね、一週間前に山口さんからコッソリ聞いていたのよ。はい、これは新しい名札。元患者さんと結婚するなんて、正直驚いたけど、この病院が縁結びになるなんて私も嬉しいわ」

 婦長さんが笑顔で、新しい名札をつけてくれた。