――病院を出たらすでに辺りは暗く、病院の入口付近に見慣れた車が停まっていた。

 ――保……?

 まさかね……?

 視線を逸らしたまま、車の横を通り過ぎる。

 ――プップップー!

 背後でけたたましいクラクションの音がし、仕方なく振り返る。

 やっぱり……保だよね。

 ゆっくりと車の窓が開いた。車の中には少し不機嫌な顔をした保が座っていた。

「乗れよ」

『乗れよ』と、言われても。『はい、そうですか』って、乗れないよ。私達はもう別れたんだから。

 呆然と立ち竦んでいると、車は急発進して私の横に急停止した。

 ブレーキ音が響き、助手席のドアが開く。

「早くしろよ!俺、二時間も待ってたんだぞ!」

「……二時間?」

「そうだよ!今日は日勤だって茜ちゃんに聞いたのに、遅せーぞ。いつまで待たせんだよ」

 誰も、待たせてないし……。
 待っててくれなんて、一言も頼んでない。

 勝手に来て、勝手に怒って、そんなの知らないよ。

 病院前でのクラクションに、通行人がジロジロとこちらを見ている。

 病院関係者に見られたら困るな。

 私は仕方なく車の助手席に乗り込んだ。

 車内では気まずい沈黙が続く。保が私を横目で睨んだ。

「お前、なんで鍵を取りにこないんだよ?スペアキーを返して欲しいんだろ?」

「……鍵は、もういらない」

「い、いらない!?」

「うん、捨てていいよ。鍵は交換することにしたから」

「交換!?なんでだよ。俺に喧嘩売ってるのか」

 保が眉をつり上げている。
 ていうか、もう怒ってるでしょう。
 喧嘩を売ってるのは、そっちだから。

「お前、俺と別れたんだってな?」

「えっ?」

 茜が剛に何か喋った?
 でも、それは嘘じゃないし。

「いつ、わ、か、れ、た、んだよ?」

「いつって……」

「言ってみろよ、俺、いつお前と別れたっけ?」

「あの日に別れたでしょう。私、そう言ったよね」

「そうだっけ?聞いてない」

「……何よ!自分が元カノと寄りを戻したんでしょう。もう私に用はないはずよ」

 保が私を睨んでる。見たことのないくらい怖い顔だ。いくら凄んでも、負けないんだから。

「ごめん……」

「えっ?」

 あの保が私に……謝った……?

 嘘でしょう?