【雫side】

 帰宅した私は床にへたり込む。

 ――どうして……
 保は追いかけて来てくれないの……。

 裏切られた悔しさと保への想いで、涙が溢れる。 

 短期間で恋に落ち、本気になっていた自分が滑稽に思えた。

 陽は陰り、室内が薄暗くなる。

 夜が更けても、保から連絡はない。

 やっぱり……
 まだ元カノに未練があるんだ。

 この数ヶ月、保と半同棲みたいな生活をしていた私は、急に一人になり寂しくて堪らなかった。

 家族を突然亡くしたあの夜のように、膝を抱えてベッドで踞る。

 泣きながら、いつの間にか私は眠りについた。

 ――深夜……
 息苦しくて目が覚めた。

 重い瞼を開くと、暗闇に人影……!?

 その人影は、いきなり私に抱き着き唇を塞ぐ。
 
 私は恐怖で声が出せない……。

 強盗……!?わいせつ目的!?
 一人暮らしの女性を狙う強盗犯だったら……。

 恐怖で体が震え涙が滲む。

 抵抗しようとしたら、両手を押さえ付けられた。

 左右に首を振り抵抗すると、重なった唇がやっと外れた。

「た……たもつ……たすけて」

 やっとの思いで……声を絞り出す。

「えっ……?なに?呼んだ?」

 は……はぁ?

 た、保なの……!?

 私は枕元のスタンドに手を伸ばす。

 照明が点き、薄明かりの中に浮かぶ保の顔。悪びれた様子もなく笑っている。

「な、なんでここにいるのよ」

「便利だな。合鍵」

「ふ、ふざけないで。怖かったんだからね……」

 強盗ではないとわかり安堵した途端、気が緩み涙が溢れた。私は子供みたいに泣きじゃくり、次の言葉が出てこない。

「えっ?えっ?何で泣いてるんだよ?わけわかんないよ」

「強盗だと思ったんだよ……。ふぇっ、怖かったんだからぁ……。レイプされると……思ったんだからぁ……」

 私はしゃくり上げながら、途切れ途切れに言葉を発する。

「もう絶対許さないんだから……。鍵返して……」

「強盗?レイプって、お前……。いくらなんでも、それはない……。でも、爆睡している彼女に抱き着いたんだから、これって、犯罪になるのかな……」

 保はブツブツ言いながら、一人で納得してる。

「だからぁ……鍵返して。彼女がいる保に合い鍵あげないんだから。返して……!」

「彼女とはもう付き合ってないって言ってるだろ」

「保なんか、保なんか、大っ嫌い!」

「大嫌い?それって……ちょっと傷付くな」

 保は気分を害したように、私から離れた。