―日曜日―

 二人の休みが重なり、私は約束通り保のマンションへ行くことになった。

 保のマンションは上北沢にあった。

 初めて訪れた保のマンション。
 ドキドキしながらエレベーターを降りる。

 保の部屋は南側の角。鍵を差し込みドアを開けた途端、あまりの汚さにトキメキは一瞬で失せ、興ざめした。

 ――何これ?

 スーパーの袋に入れられたプラスチックのゴミがあちらこちらに散乱し、埃や紙屑が部屋の隅に溜まっている。

「うわっ……!酷すぎる!」

「あははっ……やっぱ酷い?」

 保はひたすら笑って誤魔化している。
 笑ったって許さないんだから。
 ゴミの集積場じゃないんだからね。

「普通さ、彼女を連れてくるなら、綺麗に室内を掃除してから呼ぶでしょう?これ、どういうこと?」

「俺さ、苦手なんだよ。掃除とか片付け大嫌いなんだ。分別もイマイチよくわからないし、大体ゴミ出しの時間に間に合わないし、それに、最近は殆ど雫の部屋に入り浸ってるし。この部屋に全然帰ってないんだよな。頼むよ雫、掃除手伝ってよ。お礼するからさ」

 保は両手を合わせ私を拝む。
 何年一人暮らししてるの?
 自分でゴミ出しもできないのかな。
 朝に弱いから、きっと爆睡してるんだね。

「お礼って、何をしてくれるの?」

「勿論、雫の喜ぶお礼は……一つしかないだろ」

 保は急にニヤニヤし始めた。
 ゴミ袋に囲まれて、発情した猫みたいに求愛しないで。

 思わず、保の頭をゴツンと叩く。

「……何考えてるのよ。こんな汚い部屋でなんて、お断りだわ。保、新しいゴミ袋を出して、ゴミ分別するよ」

 せっかくの休日、期待した私がバカだった。
 大掃除させるために私を呼ぶなんて、その神経が信じられない。

 でも……二人で掃除している内に、ちょっと楽しくなってきた。まるで保の奥さんにでもなったみたいに、私は保に指図しながら部屋の掃除をした。

 キッチンに始まり、ダイニング、リビング。
 ゴミを散らかし放題の保は、本当に子供みたいだ。

「保、この部屋いつから掃除してないの?」

「えっと……かれこれ半年前?」

「えぇー!ありえない!半年も放置していたの!?」

 だから、私のマンションに転がり込んだわけだ。

「でも、寝室は昨日掃除したんだよ。見て見て、超綺麗だろ?雫のために片付けたんだ。シーツも新調したし、なぁ、少し休憩しない?」

「……まったく、よくそんなことが言えるわね。まだダメ!掃除が全部済んでから!」

「ちぇっ……」

 三時間も掃除に時間を費やし、ダイニング、リビング、キッチンをやっと片付けた。トイレと格闘している保を微笑ましく思いながら、洗面所に入る。

 保がトイレを掃除しているから、あとは洗面所と浴室だけ。

 ふと視線を向けると、洗面所の鏡の前にコップに入った歯ブラシが二本。

 赤と……青……?

 洗面台の上に、ピアスが二つ……。
 浴室を見ると、女性用のシャンプーとトリートメント……。

 ――保に……女!?

「雫、どうかした?」

 保に背後から声をかけられ、思わずハッとしたが、体が硬直したように動かない。