一日の仕事を終え、近所のスーパーで買い物をして家に帰る。保が訪ねて来るかもしれないと思ったら、ついつい食材を大量に買い込んでしまった。

 保は本当に来るのかな?

 いつもなら一人分だから、たいした物は作らないけれど。誰かのために作る料理は楽しい。

 夕飯のメニューは中華料理。唐揚げと海老のチリソース、餃子にチャーハン、マーボー豆腐。中華サラダにお吸い物。

 あわただしく料理を作り終え、ホッと一息。
 テーブルに並ぶ料理のボリュームに自分で驚く。

 私………何を張り切ってるの?
 保に女子力を発揮するだけムダだよ。

 もしも今夜保が来なかったら、この料理どうするの?

 明日の朝も晩も、中華料理だな。

 時計を見ながら、不安な時を過ごす。
 疲れから、テーブルに伏せウトウトしていたら、不意に玄関のチャイムが鳴った。

 インターホンの画面には、カメラを覗き込み変顔をしている保が立ってた。

 ていうか、何やってるの。
 バカみたい。

 でも、よかった……。

 嬉しくて、つい頬が緩む。

 私、何を喜んでるの?
 バカみたいなのは、私の方だ。

 玄関のドアを開けたら、保は満面の笑みだった。

「ただいま」

 保が両手を広げ、ムギューッと私に抱きつく。

「きゃあっ……」

 そのムギューッに、戸惑いながらもちょっと嬉しい。

「……お帰りじゃない。い、いらっしゃい」

「何、悩んでるの。俺達、もう付き合ってるんだよな。お帰りでいいんだよ」

 保は困り顔の私に、チュッとキスを落とす。

 保のキスに私は弱い。
 そして、保も私のキスに弱い。

 保はすぐにスイッチが入っちゃうんだから。

「……あのさ、晩ご飯作ったの。食べる?」

「ん……?ご飯?」

 ダイニングテーブルの上に並ぶ料理を見て、保が歓声を上げた。

「うおー!すごっ!なになに?雫?今日って、何の日?雫の誕生日か?それとも交際記念日のお祝い?」

「えっと……、作り過ぎただけだよ……」

「もしかして、俺が来るのを待っててくれたのか?」

「そ、そんなわけないでしょう。仕事が忙しいから、作りおきしただけだよ」

 保のために作ったなんて、照れ臭くてそんなこと言えないよ。

「まじで?これが一人分なのか?雫、毎日一人でこれ全部食べてるのか?すごい食欲だな」

「ち、違うわ。一度に食べ切れるわけないでしょう。だから作りおきだってば。冷めたらタッパーに入れて保存するの」

「本当は俺のことを待ってたくせに。素直じゃないな」

 保はダイニングテーブルに並ぶ料理を見て、ニカッと口元を緩め私を抱き締めた。

「雫、まじで可愛い。仕事で疲れてるのに、俺のためにこんなに作ってくれるなんて。雫にご褒美あげないとな……」

「はっ?」

 保が私の手首を掴み、本気のキスを始めた。

「雫……ご飯はあとにしよう」

「えっ、えっ?せっかく作ったのに冷めちゃうよ」

「大丈夫だよ。料理は冷めても美味いって……。俺達の気持ちが冷めない内に……。あっちに行くぞ」

「えっ……。やだやだ」

「何、拒否ってるんだよ。朝の続きだよ。約束は果たす」

「別に果たさなくても……」

 保が私の手を引っ張り、寝室に誘導する。

 あんなに頑張って、料理を作ったのに。
 
 朝の続きって……。