【雫side】
日曜日の午後四時半、私は新宿で茜と待ち合わせる。
初デートがカラオケって、もう少し気の利いたお店を思いつかなかったのかな。社会人のデートコースとは思えない。
剛ってあまりセンスよくないかも。
堅物の公務員。SNSで女性を口説くわりには、真面目でつまらない男かもしれない。
もしかしたら会話が苦手で、カラオケにしたのかな。それとも密室だからカラオケにしたのかな。だとしたら下心ありありだね。
私はどうせ付き添いだし、知らない人と付き合うつもりはないから、別に茜が誰と付き合おうと関係ないけど。茜の純粋な想いを裏切る行為をしたら許さないんだから。
あれこれと思いを巡らせながら、茜が来るのを待った。
時間にルーズな茜、いつも以上に遅い。
何やってるの?もうすぐ五時になっちゃうよ。
時間厳守の私は、携帯電話を取り出し茜にLINEを打つ。返信を待っていると、パタパタとハイヒールの音がした。
「雫、ごめん。遅くなっちゃった……」
目の前に現れた茜の服装に、私は目を丸くする。
「嘘!?めっちゃお洒落して、どうしたの?」
茜の通勤着は地味なTシャツにGパン、足元はスニーカー。どちらかといえばカジュアルな服装を好む。
だから私も茜に合わせて、今日はブルーのボーダーのTシャツとGパンにしたのに。今日の茜はワンピースで、フレアスカートが風にふわふわ揺れている。しかも女性らしいパステルカラーの花柄だ。
足元はいつも履かない白いエナメルのハイヒール。
いつもはスッピンに近いナチュラルメイクなのに、今日の茜はばっちりメイクだ。
「茜……すっごい。気合い入ってるね」
私は思わず苦笑い。
恋は女性のファッションをも変えてしまうんだね。
好きな人に可愛く見られたい乙女心が、滲み出ている。
「あんまり見ないでよ……。だって初めて会うんだし。第一印象は大事でしょう。だから奮発して新調したのよ。それより雫こそどーしたの?いつもよりメチャメチャ地味だよ?室内着で来たの?」
「……っ、いつもの茜に合わせたらこうなったのよ」
「えっ……私そんなに地味じゃないよ」
「地味だよ」
私は笑いながら茜に突っ込む。
まさか、本人に自覚ゼロだなんて思わなかった。
私だって、このボーダーのTシャツ新調したんだよね。
「いいの、いいの。私は付き添いだし、区役所のおじさんに気に入られても困るしね。今日は茜の引き立て役だから、裏方に徹します」
「悪いね。じゃあ、しっかり私を引き立ててよ」
「ちゃっかりしてる」
私達は笑いながら、カラオケ店へ向かった。
『レオン』は新宿では有名なカラオケ店で、有名人もよくお忍びで訪れるらしい。
カラオケ店なのに、クラブみたいに会員制で予約しないと絶対に入れない。
「一度レオンに来たかったんだ」
茜が瞳をキラキラさせている。
まるで女子高生みたいだ。
「二階のフロアや廊下に、有名人の写真やサインが飾ってあるらしいよ。偶然でいいから有名人に会えないかな」
学生向けのカラオケ店だと思っていた私も、茜の言葉にちょっとだけ期待が膨らむ。
レオンの受け付けで、茜が店員に問う。
「すみません。桜田さんで予約入ってると思うのですが……」
「はい、もう見えてますよ。個室にご案内しますね」
日曜日の午後四時半、私は新宿で茜と待ち合わせる。
初デートがカラオケって、もう少し気の利いたお店を思いつかなかったのかな。社会人のデートコースとは思えない。
剛ってあまりセンスよくないかも。
堅物の公務員。SNSで女性を口説くわりには、真面目でつまらない男かもしれない。
もしかしたら会話が苦手で、カラオケにしたのかな。それとも密室だからカラオケにしたのかな。だとしたら下心ありありだね。
私はどうせ付き添いだし、知らない人と付き合うつもりはないから、別に茜が誰と付き合おうと関係ないけど。茜の純粋な想いを裏切る行為をしたら許さないんだから。
あれこれと思いを巡らせながら、茜が来るのを待った。
時間にルーズな茜、いつも以上に遅い。
何やってるの?もうすぐ五時になっちゃうよ。
時間厳守の私は、携帯電話を取り出し茜にLINEを打つ。返信を待っていると、パタパタとハイヒールの音がした。
「雫、ごめん。遅くなっちゃった……」
目の前に現れた茜の服装に、私は目を丸くする。
「嘘!?めっちゃお洒落して、どうしたの?」
茜の通勤着は地味なTシャツにGパン、足元はスニーカー。どちらかといえばカジュアルな服装を好む。
だから私も茜に合わせて、今日はブルーのボーダーのTシャツとGパンにしたのに。今日の茜はワンピースで、フレアスカートが風にふわふわ揺れている。しかも女性らしいパステルカラーの花柄だ。
足元はいつも履かない白いエナメルのハイヒール。
いつもはスッピンに近いナチュラルメイクなのに、今日の茜はばっちりメイクだ。
「茜……すっごい。気合い入ってるね」
私は思わず苦笑い。
恋は女性のファッションをも変えてしまうんだね。
好きな人に可愛く見られたい乙女心が、滲み出ている。
「あんまり見ないでよ……。だって初めて会うんだし。第一印象は大事でしょう。だから奮発して新調したのよ。それより雫こそどーしたの?いつもよりメチャメチャ地味だよ?室内着で来たの?」
「……っ、いつもの茜に合わせたらこうなったのよ」
「えっ……私そんなに地味じゃないよ」
「地味だよ」
私は笑いながら茜に突っ込む。
まさか、本人に自覚ゼロだなんて思わなかった。
私だって、このボーダーのTシャツ新調したんだよね。
「いいの、いいの。私は付き添いだし、区役所のおじさんに気に入られても困るしね。今日は茜の引き立て役だから、裏方に徹します」
「悪いね。じゃあ、しっかり私を引き立ててよ」
「ちゃっかりしてる」
私達は笑いながら、カラオケ店へ向かった。
『レオン』は新宿では有名なカラオケ店で、有名人もよくお忍びで訪れるらしい。
カラオケ店なのに、クラブみたいに会員制で予約しないと絶対に入れない。
「一度レオンに来たかったんだ」
茜が瞳をキラキラさせている。
まるで女子高生みたいだ。
「二階のフロアや廊下に、有名人の写真やサインが飾ってあるらしいよ。偶然でいいから有名人に会えないかな」
学生向けのカラオケ店だと思っていた私も、茜の言葉にちょっとだけ期待が膨らむ。
レオンの受け付けで、茜が店員に問う。
「すみません。桜田さんで予約入ってると思うのですが……」
「はい、もう見えてますよ。個室にご案内しますね」