私はたった十六歳で……
 たった一人で……家族を捜し続けた。

 当時、祖父母は健在だったけれど、あまりにも無残な遺体に、ショックで寝込んでしまったから。

 私は連日、誰なのかわからない遺体を見せられて、吐き気と恐怖を押し殺して棺の中を見た。

 両親と弟を捜したい一心で、私は必死だった。

 気が狂いそうになる現実。
 地獄の中をさ迷う毎日。

 大好きな家族を捜すために、私は壊れそうになる心を奮い起こす。

 私の心はズタズタだった。
 家族の死と向き合うには、あまりにも未熟だった。

 あんな無残な現場を見せられて、人の死を受け止めることが出来なかった。

 唯一、目視で確認することが出来たのは……
 小さな弟の遺体だった。

 弟は母に守られ、奇跡的に焼死を免れていた。

 あどけなくて愛らしかった顔は、血の気が失せ青白く二度と微笑むことはなかった。

 その後、母はDNA鑑定で確認されたが、父はその一部すら、発見出来なかった。

 ――生と死。
 神を恨み、運命を呪った私が、数年後看護師の道を進むことを選んだ。

 両親や弟にしてあげられなかったことを、病気や怪我で苦しむ人の力になりたい。

 それは正義感や使命感からではなく、自分だけがこの世界に生き残ってしまった後悔と懺悔の気持ちからだった。

 ◇◇

 大野さんのベッドを片付けながら、窓の外を見る。

 今夜も夜空には美しい月が出ている。

 ――あの日と同じ月が……
 地上に生きる者達を照らしている。

 ――私は……月夜が嫌い。

 暗闇を照らす……

 美しいあの月が……

 大嫌い。

 ――哀しくて……辛い……

 あの夜を、思い出すから……。

 あの夜と同じように……

 月も泣いているように……

 見えるから……。

 ◇

 午前八時、日勤の看護師と交替するため、いつものようにナースステーションで申し送りをする。

「大変だったね、大野さん。雫、お疲れ様でした」

 茜が私に声を掛けた。
 人の死に接すると、立ち直れなくなる。

 この性格、看護師に一番向いてない。

「疲れたでしょう?雫、早く帰って休んで」

 両親や弟の事故死を知っている茜は、私に優しく声を掛けてくれた。

 私はロッカールームに入り、白衣を脱ぎクリーニングのカゴに入れた。激務から解放され、体の力が抜ける。

 病院を出ると足取りも重く、真っ直ぐ自分のマンションに帰った。