私は、猫に連れられ森の中に来ていた。
さっきとは違う異様な雰囲気の漂うような森だ。
歩いていると、猫がピタッと立ち止まった。
「何・・・・・・?」
ふと視線を上げると、そこには洋風のカフェのような家が立っていた。
(う、うわぁ!!)
家の圧倒さに驚いていると、玄関の扉がギィッと開いた。
「おや、これは珍しいお客さんだ。」
出てきた男の人はニコリと微笑み、私に近づいてきた。
「ようこそ。片山 美南さん。」
「え・・・?どうして私の名前を。」
「まぁ、立ち話もなんですし。どうぞ。」
私は、男の人に通され家に入った。
そこは、小さなカフェのような趣きのある室内が広がっていた。
「どうぞ。」
「あ、ありがとうございます!」
促されるように椅子に腰掛ける。
「その前に何か飲みますか?紅茶とかありますけど。」
「あ、じゃあそれで。」
「分かりました。」
男の人は、ニッコリと笑うと台所へと向かった。
「お待たせしました。アールグレイです。」
「あ、ありがとうございます。あの・・・・・・。」
「あぁ、自己紹介がまだでしたね。僕は、小日向 洋。こっちは、飼い猫のナナです。」
「あ、あの。片山 美南です。ここは、一体どこなんですか?」
「ここは、天国と地獄の境目の世界です。僕はここで死んだ人達が安心してもらえるようにちょっとした家に住んでいるんです。」
「境目・・・・・・。あの、私は天国に行けるんですか?」
「あぁ。実は、片山さんは死んではいないんです。」
「え!?どういう事ですか?」
「貴方は、屋上から飛び降り自殺しましたが、意識不明の重体で入院しているんです。いわゆる臨死体験ですね。」
「臨死体験・・・・・・。」
(じゃあ、もしも意識が戻ったらまた・・・・・・。)
嫌な記憶が頭の中を過ぎる。
『片山さんってさ〜。正直ウザくない?』
『分かる〜!いっつもヘラヘラ笑ってるしさ〜。』
『なんかさ〜、余計なお世話だよね〜。』
会社での悪口。何日も帰れないブラック企業。
(また・・・・・・。あの時に・・・・・・。)
考えるだけで手が震える。
「大丈夫ですよ。貴方が望まない限り、現実には戻りませんから。」
(小日向さん・・・・・・。)
「あの、片山さん。実は、生き返って現実世界に戻るか天国に行くか選ぶんですが・・・・・。どうしますか?」
「ごめんなさい。今はまだ決められません。」
「そうですか。あの、僕と1週間ここで暮らしませんか?」
「え・・・・・・?」
「片山さんは、現在臨死体験状態ですので、僕と一緒に過ごして決めてもらうというのはどうでしょう?」
「1週間か・・・・・・。」
(この人となら、安心できるかもしれない・・・・・。)
「はい!よろしくお願いします。」
私は、この後小日向さんに部屋に案内された。
部屋を用意していることに私は凄く驚いた。
美味しい料理を食べるのも部屋に置かれているベッドに眠るのも、久しぶりのことだった。
(あぁ、ベッドで寝るなんていつぶりだろう。幸せだなぁ〜。)
私は、幸せに浸りながら眠りについた。
「片山さん。おはようございます。」
「お、おはようございます・・・・・・。」
朝起きてくると、エプロン姿の小日向さんが迎える。
テーブルを見ると、既に2人分の食事が用意されていた。
「小日向さん!ご、ごめんなさい!」
「え?どうして謝るんですか?」
「だ、だって!食事用意されてるし・・・・・!何も手伝わないわけには・・・・・・!!」
勢いで言ってしまったことにハッとする。
(また、謝っちゃった・・・・・・。)
『片山さんさ、いっつも何かあるとすぐ謝まるよね〜。』
『確かに!なーんか必死だよね〜!』
『ペコペコして、気持ち悪〜。』
あぁ、まただ。
また、あの時の記憶だ・・・・・・。
もう、嫌だ。
思い出したくない。
誰か、誰か助けて・・・・・・。
「片山さん?片山さん!!」
顔を上げると、心配そうに見つめる小日向さんの姿があった。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい・・・・・・。大丈夫です・・・・・・。」
「片山さん。謝らなくて良いんです。貴方の悪口を言う人は、誰もいませんから。」
その言葉に涙がボロボロと溢れ出した。
「え!?あ、すみません!僕、また何か・・・・・!」
「いいえ。違います!ただ、嬉しくて・・・・・・。ありがとうございました・・・・・・。」
私は顔を上げ、小日向さんに笑顔を向けた。
「やっぱり、片山さんには笑顔が似合いますね。」
「え!?」
小日向さんの言葉に顔が熱くなった。
洋side
パソコンがカタカタと音を立てる。
僕は、片山さんの情報について調べた。
『○○県○○市在住 片山 美南(25)
中小企業××会社に勤務していたが、飛び降り自殺で現在臨死体験中。』
「さて、これからどうするか・・・・・・。」
いくら1週間過ごすとはいえ、彼女は臨死体験中。
さっきだって、あんな様子だったんだ。
何か、ここに来る前あったのかもしれない・・・・・・。
(今日は、木苺の収穫を一緒にしよう。)
そうすれば、彼女の気持ちも楽になれると思う。
僕は、さっそく準備に取り掛かった。
「片山さん!早速ですけど、木苺を収穫しに行きませんか?」
「収穫・・・・・・ですか?」
「はい。木苺を収穫してジャムを作ろうかと思うんです。ですが、1人じゃ大変で・・・・・・。アハハ。」
「じゃ、じゃあ手伝いましょうか・・・・・・?」
「本当ですか!?ありがとうございます!では、早速始めましょう!」
「は、はい!」
「うわぁ〜!!」
私の目の前には、大きな菜園場所が広がっていた。
家が1件建ってしまうような大きさに、私は目を丸くする。
暖かな日差しが差し込んで、体を包み込むようにポカポカする。
「暖かいですね〜。」
「ここは、一年中春みたいで暖かいんですよ。だから野菜も果実も良く育つんです。」
「へぇ〜!そうなんですか〜。」
私達は、収穫を楽しんだ。
小日向さんが食べさせてくれたけど、酸味がきいて甘酢っくてとても美味しかった。