『佐藤さんのこれは、心因性失声症です』
あの日、病院から出されたアンサーにこれ以上ないくらいに戸惑った日々が懐かしい。
『個人差はありますが、この症状は自然と回復するものですので』と気休めとも言える一言を最後に告げると、その日の診察はあっという間に終えた。
母親とともに診察室をあとにして、帰路に着いた私は自室に駆け込むと扉を背にして、ずるずると崩れ落ちた。
震える指先を喉に当てる。
口を開いて零れるのは、声になり損ねた吐息。
脳裏に浮かぶのは、懐かしき笑顔。それから──……。
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