【side 茜】
──もう、誰も信じないって
そう決めたから。
◇
春の訪れを感じさせる桃色の花弁が、温かな風に吹かれてひらひらと舞う。
片手を器の形にしてそれを包み込めば、ゆっくりとそこに着地した。
最短距離にある大きな桜の木に爪先を向けると、私はその光景に目を細めた。
見上げた先に映る景色にどこか懐かしさを抱きながら、ちいさく微笑む。
胸に残るこの切なさが示すものがなんなのか、心当たりはあったけれどそれを無視するように私は踵を返して歩き出した。
手のひらに確保したはずの花弁は、その反動でどこかへと消えてしまった。
乾いた咳をひとつ零す。
見上げた空は、とても綺麗な海を描いていた。