『久しぶりだなぁ、友達とここに来るの』
 お互い時間のある私達は、近くにあったカフェに立ち寄る。
 彼女は来たことのある場所だという。きっと勝手はきいているのだろう。
 若い店員さんに案内され、私たちは小さなテーブルに移動する。
 背負っていたバッグを横に置き、向かい合うように座ると……
『どうして、私に話しかけてくれるの?』
と、いつの間にか、私の口から言葉が出ていた。
教室で独りぼっちだった私に明るい声をかけてくれたのは、彼女だけだった。
 こうして、誰かと一緒に帰ったのもおそらく3年ぶりくらいだろう。
『私と似てるのかな、って思っちゃって……なんて、私なんかと一緒にされたくないよねっ』
 不快だったらごめん、と愛想笑いを浮かべながら話す彼女。
 なんで詩葉が謝るのだろう……? 謝ることなんて、何もないのに。
『あ……ありがとう』
 言葉を詰まらせながらも、私の口から出たのはその一言だけだった。
 私はこれで話を終わらせようと思っていた。そうすればきっと、深く関わることもない。
 だけど、そんな私の思いは届かず、彼女は話を再開した。
『実はね、私も転校してきたんだ。実家はF市にあるんだけど』
 F市というのは、ここS県内にある市町村の一つだ。距離的にはそんなに離れてはいないけどここの方が人口が少ないらしい。
 ちなみに、私は高校に入る直前に隣のY県からここに引っ越してきた。
『だから、まだ友達が作れてなくて』
 でも、と彼女は続ける。
『梨来ちゃんなら……友達になれるかもって思ったんだ』
 彼女は満面の笑みで、私にそういった。
 詩葉の笑顔は、素敵だな……。
 それは、笑顔の苦手な私が、今初めて思えたこと。

 たしかに詩葉となら……友達になってもいいのかもしれない。
 彼女の言葉に悪意は感じられなかった。むしろ善意までもを感じる。
 何よりも、こんな私と友達になってくれようとすることが、素直に嬉しかった。
 だから……。

『私も、友達になりたいな』
 素直な私の気持ちを、詩葉にぶつけた。