私は、この世界が大嫌いだ。
 偽りであふれたこの世界が、私は大嫌いだ。
 偽りであふれた人間たちが、私は大嫌いだ。
 なんて……、私も例外ではないわけだけど。



「目が覚めたら、何もかもが消えてなくならないかな」

 教室で、窓際の席に座りながら、ふとそんなことを考える。
 一人で目を瞑ってはまた開ける。そんなことを繰り返していても、無論そんなことが起こるわけがない。
 はぁ……。現実逃避してないでいい加減現実に戻ろう。

 学校は楽しい。それは、今年初めて思えたこと。
 中学校とはかけ離れた場所の、少しだけ偏差値の高い高校に進学した私は、クラスメートにも恵まれ充実した生活を送っている。
 彼氏こそいないものの、親友とよべるような友人はいる!
 中学生までの友人とは――全く違う。

「梨来――!」
 っ!
 勢いよく後ろから抱きついてきたのは、私が一番信頼をおいている親友の佐野詩葉だ。信頼を置いているからこそ、悩み事などたくさん相談してしまっている……迷惑かけちゃってるな私。
 それにしても、ところかまわず抱きついてくるくせも直してほしいものだ。
「もう、また髪がぐちゃぐちゃに……」
「えへへ、ごめんごめん」
 でも可愛いから許しちゃう。
 男子からも人気な詩葉ちゃんと親友の中になったのはいつからだっけな……。


『梨来ちゃん、転校してきたんだっけ……?』
『えっ、あ、佐野さん……』
『さん付けとかやめてよ! 詩葉がいいな~へへ』
『……』
『よろしくねっ! 私も梨来って呼ぶからさ』
 人の話を聞きもしないで勝手に話を進めていく彼女。私は正直嫌いなタイプだった。
 中学の友人が、彼女と似ていたから。
 でも、彼女は違っていた。何もかもが、あの子とは違っていた。

『梨来はさ、なんで引っ越ししたの?』
『え?』
 それは雨の日。詩葉と無理やり一緒に帰らされたときに言われた言葉。
『ずっと不思議でさぁ……私結構おせっかいだから』
 笑いながら言う詩葉。私は正直、お節介な子は嫌いだ。
 私の気持ちなんて、彼女に分かるわけがない。その考えを押し通してきた私には、どんな言葉も響かないと思っていた。

『もしかして、いじめとか、かな?』
 いじめ、か……。
 私が中学生の頃に受けたあれは、いじめとは違っていた。
 私が、勝手に親友だと思っていた人に……裏切られただけ。私が全部悪い。
 にらみつけている私の気持ちが伝わったのか、そのあとは何も言わずに帰路についてくれた。
『じゃあ、私はこれで……』
 帰る方向の違う私は、そっけなくそういうと道角を曲がろうとする。
『……待って!』
 が、彼女は私を止めた。いったい何が言いたいというんだ……?
『急いでる?』
 そう聞く彼女に私は首を横に振った。
 横に振ってから気付いた。嘘でも、縦に振っておけばよかったと。
 実際、特に用事はないし帰りの時間も早い方だ。
『なら……少しだけ、話を聞かせてほしいな』
 そういった彼女は――さっきまでとは違う、優しい声をしていた。