軒を連ねて並ぶお祭りの屋台は、なかなか壮観だ。
 かと言って、ただ見るだけでは面白くないから、途中で手頃な食べ物を買って、食べながらまた歩く。
 これこそ、お祭りの醍醐味だと思う。

 けれども、今回はどうも、楽しむどころか気を遣う。

 上村はクラスメイトだし、何度か話はしたことがあるものの、親しい間柄かと言われれば、決してそうでもない。
 話すといっても、本当に当たり障りのない挨拶とか、先生からの頼まれごとを伝える程度だ。

 案の定、私と上村との間には、周りの明るい雰囲気とは対照的に気まずい空気が漂っている。

 ――帰りたい……

 隣の上村に、聴こえるか聴こえないかといった、小さい溜め息を吐いた時だった。

「つまんない?」

 今まで、ほとんど声を発しなかった上村が、初めて私に話しかけてきた。

 私は弾かれたように上村を見る。
 ほんの少し、淋しげな表情に映ったのは気のせいだろうか。

「上村君こそ、私が相手じゃつまんないんじゃない?」

 これでははっきりと、上村の先ほどの言葉を肯定しているようなものだ。
 口に出してしまってから気付いたけど、今さら引っ込めることなど出来るわけもなく、必死で平静を装いながら上村を覗った。

 そんな私に、上村は困ったように苦笑いを浮かべた。

「俺は別につまんなくなんかねえよ。てか、退屈だと思ってたら、あいつらがいなくなった時点でとっくに帰ってるし。――けど、斎木《さいき》が帰りたいってんなら……」

 そう言われると、簡単に、『帰りたい』などと言えなくなってしまう。

 私はしばらく考えていたけれど、そんなことをしていても埒が明かないと思い直し、「帰らないよ」と答えた。

「せっかくお祭りに来たんだから、出店ぐらいは回って歩きたい。――浴衣だって着てきたのに……」

 私の言葉に、上村は、フッと柔らかく笑んだ。

「じゃあ、一緒に回る?」

 そう問われて、まさか、『NO』なんて答えられるわけがない。

 私が黙って頷くと、先ほどよりもさらに上村から満面の笑みが零れた。