ホッと胸をなでおろす一方で、優花の心にフツフツと湧き上がってきたのは、晃一郎へ対する憤り。

 優花は、リュウから聞いてしまったのだ。

 一時間目の現国のとき、優花が眠りに落ちていた間に、リュウと晃一郎の間で交わされたメモの内容を。

『昨夜、彼女は俺と徹夜して疲れているから、起こすな!』

 そんな内容のメモを見せられたら、リュウが勘違いするのも仕方がない。

「……晃ちゃん」

――すぐにバレるような嘘をつくなんて、どう言うつもりなの?

 今度、戻ってきたら、問い詰めてやるっ!

 コートの中で大活躍中の不届者にギロリと鋭い眼光を投げつけ、優花は低い声でその名をつぶやく。

 不穏な空気を察してか、コート上では、晃一郎が背筋にゾクリと悪寒を走らせていた。

 晃一郎の活躍の成果で、Cチームは大差で圧勝した。

 次のチームが召集されるコートから、晃一郎と玲子が連れ立って戻ってくるのを、優花は仁王立ちで、今か今かと手ぐすねを引いて待っていた。

 隣には、そんな優花の内心を知ってか知らずか、リュウがニコニコと邪気のない笑顔をたたえて立っている。

『どうして根も葉もないすぐにばれる嘘をつくの!』

 優花は、幼なじみ殿の大活躍を賞賛するためではなく、メモの件を問い詰めるためのセリフを脳内リピートした。

 秋口とは言え、かなりの運動量に汗をかいたのだろう。

 歩み寄ってくる晃一郎は、顔をパタパタと手のひらで仰いでいる。