「やっと笑ってくれたので、よかったと思って」

――心配してくれたの?

 それで、わざと明るくなれる楽しい話題をふってくれたんだ……。

「ありがとう」

「何がです?」

「ううん、なんでもないよ」

 優花の顔には自然と笑みが浮かんだ。

――優しい人なんだな。そう思った。

 リュウくんは、他人を労われる、優しい人。

 一ヶ月。

 短いか長いか良く分からない期間だけれど、きっと、リュウくんとは良い友達になれる――。

 優花は、そんな確かな予感を抱いた。

 優花がリュウとほのぼのとした親交を深めている間。

 コート上では、文句を言いつつもスポーツ万能選手の晃一郎は、目立った活躍を見せていた。

 相手コートに華麗なるジャンピング・サーブを決めた晃一郎の運動神経が、優花には少しばかり羨ましい。

 運動は嫌いではないが、決して得意とは言えなかった。

「ゆーか。聞いてもいいですか?」

 ひとしきり漫才談義に花を咲かせたリュウが、逡巡するような短い沈黙の後、静かに問いかけてきた。

 まっすぐ向けられる眼差しは柔らかいが、真剣そのものだ。

 心の奥底を見透かされそうな澄んだ瞳に見つめられて、優花はドギマギしてしまう。

――な、なんだろう?

 優花は、思わず背筋をピンと伸ばして居住いをただし、リュウに向き直った。

「私に答えられることなら、いいけど……」

 担任の鈴木先生から案内役を頼まれていると言う義務感からではなく、素直な厚意から、優花は自分の出来る限りリュウの役に立ちたいと、そう考えていた。