ジワリジワリと背筋を這い上がってくるのは、痛みではなく、絶望的なまでの恐怖。
横ざまになったトレーラー。
声にならない悲鳴。回る世界。
そして――。
――あ、ああ!?
脳裏にフラッシュバックする陰惨な光景に、心の中の何かが切れかけた、その時。
「……大丈夫。大丈夫だ」
すうっと、聞き覚えのある声が、耳にしみ込むように届いた。
優しい響きを持った低音の声音は、幼いころから聞きなれた、兄のような幼なじみの声に似ている。
……晃、ちゃん?
「そう、俺だ。俺がちゃんと側にいるから、何も心配するな」
「……っ……あぅ」
自分がどうなっているのか、父と母は無事なのか聞きたくて懸命に口を開くけれど、やはり意味のある声にならない。
それでも尚声を上げようとすると、それを制止するように、フワリと額に温もりを感じた。
――手だ。
大きな、晃ちゃんの、手?
『しゃべるな。心で思うだけでいい』
心……で?
『そう、思うだけで、俺には分かるから』
え?
言葉の意味が分からない。
『お前は今、ちょっとばかり大きなケガをしている。でも大丈夫。少し眠って目を覚ます頃には良くなっているから。だから、何も心配しないで、今は眠るんだ』
眠る?
『そう、眠るんだ』
耳に聞こえる『音声』ではなく、直接脳内に響いてくる不思議なその『心の声』はとても心地よくて、安心できて、優花は、すうっと眠りの中へと引き込まれていった。