――ああ、夢だ。夢を見ている。

 それも、絶対見たくない、残酷な悪夢を――。

 そう、忘れもしない、あれは三年前。

 中三の夏休みだった。

 昼間の猛暑の名残りをまだ充分に残した、肌をじっとりと濡らすような蒸れた空気に包まれた、そんな夕暮れ。

 車の窓越しに流れ行く夜の帳に包まれる間際の空は、燃えるような茜色に染まっていた。

『受験勉強の息抜きに、たまには家族みんなで外食をしよう!』という優花の提案で、父が久々に車を出すことになったのだ。

 祖父母は、三人で行っておいでと、笑顔で送り出してくれた。

 運転席は父。

 助手席が母で、運転席の後ろの座席が一人娘である優花の指定席。

 七歳くらいのころだったか、『わたしも、助手席に乗りたいっ!』と父に言ったら、『助手席はお母さんの指定席だから、大きくなったらカレシに乗せてもらいなさい』と、やんわりと笑って断られたことがある。

 今にして思えば、日頃あまり語らない人だった父の、母に関する数少ない『のろけ』だったのだと思い当たる。

 仲睦まじく並んで座る両親の後姿は、ちょっと気恥ずかしいけどホッと安心できるそんな光景で、その一時は、確かに幸せな、かけがえのない大切な時間だった。

 共働きで忙しい両親と外食に出かけるのはかなり久しぶりで、とてもウキウキしていた。目的地は、市の中心にあるレストラン街。

 日本食はもちろん、中華からインド料理まで、世界のありとあらゆる食が味わえることが売りのこのレストラン街に訪れるのは、これで何度目だろうか。

 料理好きの『お祖母ちゃんとお母さんコンビ』のおかげで、誕生日には手作りケーキや特製料理が並ぶ家なので、外食自体数えるほどしかしたことがない。

 最後に来たのは中学の入学祝いで、祖父と祖母も一緒だった。和風料亭で、珍しい『豆腐料理尽くし』を堪能した。