突然、反応しなくなった優花の様子に、リュウは何事かと、その顔を覗き込んだ。
「どうしました、ゆーか?」
揺り起こそうと伸ばしかけたリュウの手は、『コツン』と、机の上に投げ込まれた小さな白い紙片によって阻まれた。
リュウは、器用に優花の頭上を超えてその紙片を投げ込んだ人物、晃一郎にチラリと訝しげな視線を投げたが、紙片を広げ、中に書いてあるメモに目を通すと、『分かったよ』といったふうに肩をすくめた。
筆記体の英語で書きなぐられたメモの内容を要約すると、『彼女を起こすな!』。
詳しく言えば、『昨夜、彼女は俺と徹夜して疲れているから、起こすな!』だった。
優花が知ったら目をむくこと間違いなしの『誤解を招く意図が満載』の文句が英語で書かれたメモは、リュウ以外は目にすることなく、その手のなかでグシャリと握りつぶされた。
そんな二人のやり取りを知るべくもなく、優花は、異常とも思える、深い眠りの中へ引き込まれていった――。