さて、状況を確認しよう。
今、金髪・・・まぁまぁ美人の汗と雌の匂いをさせて少々別の匂いも混じっている女が腕の中に居る。まだ、俺の差し出した手を握って震えている。ハンドルを握っていた手を離して、肩を抱き寄せるようにしている。
少しでも落ち着いてくれると嬉しい。震えている事から、よほど怖かったのだろう。ゴブリンの群れに襲われたのだから、怖がるなというのが無理な注文なのかもしれない。
ディアナからの報告では、15体のゴブリンを倒した事になっている。最初に認識したのは、16体だから1体が生き残っていることになっている。見回したが見つける事ができない。
窓を少し開けて、音を聞いたり周りを見るが、安全になっていると思って良さそうだ。遠くに飛ばされたのかもしれない。
ディアナのドアを開けて、女を抱きかかえて、足を踏み出す。
”グッエェ”
なにか踏んだ?
生き残っていたゴブリンを踏んでしまったようだ。慌てて、その場から遠ざかるが、ゴブリンは死んでしまったようだ。俺が最後の止めを刺したのだろう。
「おい。おい。言葉はわかるのだろう?」
「え?あっ・・・うっ・・・うん」
「そうか・・。なぁ・・・。降ろしていいか?」
「え?あっ・・・・・・・・・・・・・キャァァァァァァ!!!!!!」
片腕で支えているのだぞ、耳元で悲鳴をあげるなよ。
落としそうになってしまう。
「暴れるなよ」
「ヤダ!ヤダ!ヤダ!犯されるゥゥゥゥ!!」
あぁもう。落とすぞ!
「暴れると落ちるぞ!」
「ヤダ!イヤ、怖い!ダメ!」
理不尽この上ない叫びだが、甘んじて受けよう。
お前が俺の手を握っているのだけどな。俺としては、降りてくれたほうが、話ができて嬉しいのだけどな。
「解った。解った」
ゆっくりと女を地面に下ろす。
地面に足が付いて、少しは安心したのか、騒がなくなった。
「それで、いつ、俺の手は自由を取り戻す事ができる?」
「え?あっ!」
自分が、俺の手をガッチリ握っているのがわかったのだろう、手を離して近くに転がっていたゴブリンの死体を蹴飛ばしている。よく見れば、耳が長い。もしかして・・・
「エルフか?」
「え?そうよ!エルフよ(ハーフだけど・・・)!エルフだとわかって犯すの?」
急に強気になられても、事情がわからない。エルフだと犯されるのが当然なのか?
「犯さないよ。そんな漏らすような女を抱いても嬉しくないからな。もっと綺麗になってから来な!」
「・・・何よ。じゃぁなんで助けたのよ!僕を奴隷商にでも売るつもり?」
おぉぉぉボクっ娘のエルフかぁ・・・一部のマニアからは需要ありそうだな。
「あぁ?そんな事をするために助けるわけ無いだろう?お前さんが”助けて”と、叫んでいたからに決まっているだろう?」
なんだよ。その疑いの目は?
確かに可愛いとは思うけど、まだガキだろう?
「ガキに興味はない。後10年経ったら相手してやるよ。そのくらいになれば、おもらしも治るだろうからな。ハハハ」
”バチーン”
女は、俺の頬を殴った。平手打ちというやつだろう。今までも、何度も受けているから解る。あたる瞬間に首を少し動かすだけで、音が大きくなるだけで殴った方の手が痛いだけの平手になる。
「痛えぇな」
俺の想像通りだ。女は、殴った手を見て驚いている。殴られる瞬間に、少し動くだけで音がすごいだけで、俺の方はそれほど痛くないようにできる。
「何よ。あんたが悪いのだからね。僕は、謝らないわよ」
「あぁいいよ。別に、謝ってほしいわけじゃないからな。それじゃ、気をつけて帰れよ!」
俺は、失礼な女をその場に置いて、ディアナに乗り込んだ。
ディアナに”火”をいれる。心地よいエンジン音が響く。
ディアナの窓を開けて、ディアナのナビに映っている情報を女に伝える。
「この辺りで、生きているのは、俺とお前だけみたいだから、安心していいぞ」
ナビには、他にも情報が表示される。
”損傷率0.05%。自動修復時間30秒”
カウントダウンが始まる。どうやら、自己修復とやらは、ディアナに火が入った状態じゃ無いとできないようだ。
「ちょっと待ちなさいよ!」
うーん。修復中でも走っても大丈夫なのかな?
「ディアナ。修復が完了する前に、動かしても大丈夫なのか?」
『エミリアが答えます。マスター。ディアナの損傷率が激しい時には、停止状態が必要ですが、現状の損傷率では問題ありません』
「どの程度と考えればいい?」
『定義が曖昧です』
「そりゃぁそうだよな。パンクとかでも修復できるのか?」
『走行に影響するような場合には、停止状態が必要になります。また、部品の欠損なども同じく停止状態が必要です。傷や凹みの場合には、稼働状態でも問題ありませんが、修復は停止状態が有効的です』
欠損も治るのは嬉しいな。何か条件があるのだろうけど、工房でマルスに聞けばいいか・・・。
「そうか!それは良かった。それじゃ拠点に移動するか?」
『はい。マスター』
「だから、僕を無視するな!」
「はぁ?お前は、なんだ?俺に用事でもあるのか?」
「え?あっ」
なにか気がついたのだろう?
「どうした?」
「ごめんなさい・・・。それから、ありがとう」
「え?なんで謝る?謝る必要はないよな?」
「助けてもらったのに、殴っちゃったから・・・」
「そうか謝罪はわかった。どこまで帰るのかわからないが頑張って帰れな」
女がキョトンとした顔をする。
「助けてよ・・・。こんな所に・・・。一人なんて・・・。どうやって・・・」
おぉ今度は泣き落としか?
嫌いじゃない展開だぞ!
「そうか?次に来る優しい人に助けてもらえよ?俺だと犯されるのだろう?」
だめだ、ニヤついてしまいそうになる。
「あぁぁぁだからゴメンなさい!!僕、男の人が怖くて・・・助けて貰ったのに、命・・・、だけじゃなくて・・・、尊厳を守ってもらって・・・、ありがとうございます」
可愛く、頭を下げる。
「それに・・・その鉄の馬車が怖くて・・・ゴメンなさい」
「わかった。わかった。お前さん、荷物とかは有るのか?」
「荷物は、アイテムボックスに入っているから大丈夫・・・それよりも、ここは本当に安全なの?」
「どうだ?ディアナ?」
『エミリアが答えます。近くに、生体反応はありません』
「大丈夫だって・・・よ。周りに、生きているのは、俺とお前さんだけだぞ」
「ねぇさっきから聞こえてくるこれって何語?なの?大陸語じゃないわよね?エルフの言葉でもないし?」
「そうなのか?エミリア?」
『はい。マスターにだけ解るようにと、日本語で話しかけています』
「そうか、レールテ語に設定できるのか?」
『可能です』
「わかった。でも、今はいい」
『了解いたしました』
「俺の国の言葉だ。気にしないでくれ」
「わかったわ」
「それよりも、アイテムボックスか・・・そうだ、お前さん。これからどうする?本当に誰か通るまで待っているのか?」
「・・・」
可愛い女の子にそんな顔をさせたいわけじゃない。話をすれば情も湧いてくる・・・。乗せるのは問題ないと思うが・・・。問題は、方向だよな・・・。
この世界のことをいろいろ教えてもらえるチャンスかもしれないからな。
「わかった、わかった、どこまで行きたい?て、聞いても、俺はこの辺りどころか、自分がどこに居るのかもわからないからな」
「そうなの?」
「あぁこの・・・ディアナって言うのだけどな、こいつと彷徨っていた」
「この鉄の馬車・・・アーティファクト?なの?」
「エミリア。どうだ?」
『アーティファクトを検索・・・成功。マスター、この雌に次のように告げて下さい”ユーラットの古代神殿に入った。アーティファクトはその時に得た、乗り込んだ瞬間に別の場所に飛ばされた”で大丈夫です』
お!解決策まで提示してくれるとは、エミリアは優秀だな。