ディアナが大きく跳ねた。バンプが有ったのだろう、こんな路面じゃしょうがない。

「ディアナ。俺、どのくらい寝ていた?」

『エミリアが答えます。マスターは、36分42秒ほど、意識を手放されていました』

 おいおい。脈拍でも測っているのか?
 まぁいい。30分ちょっとネタだけで頭はスッキリしている。もともと眠気が強かったわけじゃない。
 気分的に横になりたかっただけだが、やはり混乱して緊張して疲れていたのかもしれない。

 運転席に戻るが、ハンドルは握らない。ディアナの自動運転を見ている事にした。

 観察していて、わかったのだが、俺の運転と似ている。アクセルワークから、ハンドルの切り方、ブレーキングポイントポイント、ブレーキの深さ・・・何から何までというわけじゃないが、俺が運転していてもそうするだろうなと思える運転をしている。
 速度を見ると、20km/h程度だ。周りの景色から、もっと遅いかと思ったが、比較できる物がない場所では、どうしても遅く感じてしまう。

「ディアナ。速度は、これ以上は出せないのか?」

『エミリアが答えます。姿勢制御が切られています。速度を上げると振動が激しくなります』

 そりゃぁそうだよな。
 でも、やってみないとわからない!

「試しに、30km/hで走行」

”了”

 速度が少し上がる。
 振動が激しくなる。ハンドルを握っていないので判断は難しいが細かい調整が必要だろう。

 今はディアナが細かく調整しているのだろう。トラクタだけだから余計に振動には弱いのかもしれない。
 荷物を積んだトレーラーを引っ張っていたら、もっと慎重に走らないと横転しても不思議ではない。

 思った以上に道が悪い。馬車で走っているとしたら、かなりの振動が乗っている人間に伝わるだろう。

 でも・・・。ラリーカーとかで走ったら楽しいかもしれないけどな。そう言えば、WRCのヤリスは総合優勝はできたのか?
 岐阜-愛知で行われるWRC日本を見に行きたかったな。

「ディアナ。運転を変わる」

”了”

 やはりハンドルを握ると、安心できてしまう。
 異世界に紛れ込んだのか、それとも、呼ばれたのかわからないが、マルスが一緒で良かった。俺1人なら、多分最初にゴブリンに囲まれた時点で死んでいただろう。それに、マルス・・・今は、ディアナか・・・に乗っていると、桜と真一と克己や”あいつ”との繋がりを感じる事ができる。アイツらなら、俺が居なくなっても、あの場所をキープしてくれるだろう。アイツらにとっても大事な場所だからな。

”ビィービィービィー”

「どうした!」

『マスター。前方に、ゴブリンが16体。人族と思われる人物が1名。近くに、乗り物の残骸があり、人族と思われる亡骸があります』

 ゴブリンに襲われている!
 ラノベの定番だな。お姫様か商人の娘・・・。まぁいい。助けないという選択肢はない!

「エミリア。接触までどのくらいだ!」

『今の速度だと、23秒後です』

「わかった!飛ばすぞ!」

”了”

 アクセルを踏み込む。
 路面の振動で、ハンドルが取られる。

「ディアナ。姿勢制御は可能か?」

 無茶を言ってみる。
 克己が、ダンパーにコンピュータ制御を入れて、振動が激しいときの姿勢を”なんちゃら”と、言っていたのを思い出す。

『エミリアが答えます。可能です。行いますか?』

「姿勢制御をオン!」

”了”

 揺れが少なくなる。
 ハンドルが安定する。桜は・・・別にして、克己や真一は本当にすごかったのだな。日本に帰る事ができたらしっかり礼をいわないと駄目だな。あいつらすごいことをしていたのだな。

 馬車の残骸が見えてくる

「キャァァァこっちに来ないでぇぇぇぇ来るなァァァ!!!犯されるゥゥ」

 よし!女だ!
 どこかの国のお姫様に決定!馬車は古いようだし騎士や御者の姿も見えないが、お姫様一択でお願いします。

「エミリア。どこに突撃するのが安全か計算できるか?」

『不可能です。経験が少なく、エミュレートに失敗しました』

 なにぃぃぃ経験が少ない!!!!
 道中で、ゴブリンやコボルトを跳ね飛ばしておけばよかったって事か??

 男は度胸!

 狙いは、お姫様の目の前で停止して、ドア開けて、ディアナに引っ張り上げる。
 これしか無い!

 アクセルを緩める。ハンドルに付いている、速度固定のスイッチを押す。
 これで、ブレーキを踏み込むか、アクセルを踏み込むまで、速度が固定されるはずだ。ハンドル操作だけに集中する。

 距離も問題なし。路面の感じも掴んだ。

 あとはブレーキのタイミングだけ。滑るなよ!かっこ悪いからな。

 よし。フルブレーキ!

 少し、リアが流れた!大丈夫、お姫様には当たっていない。砂埃で見えないが、お姫様は無事(だといいな)!

 路面の関係で距離があいてしまった。完全に停止してから、ドアを開ける。

「こっちだ!急げ!」

 言葉が通じるのか?
 女は、驚いているが、とっさに判断したのだろう。頭のいい女は好きだ!

 俺が差し出した右手を握った。
 温かい、人の手だ。

「飛べ!」

 女は地面を蹴った。
 俺は、力任せに女を引っ張り上げる。

 女はハンドルを持った左腕に背中を預ける格好で、俺の腿の上に座るような格好になる。

 ディアナの中に女が入った事を確認して、アクセスを踏み込む。
 ドアを閉めて、女の無事を確認する。

 前方に居たゴブリンを跳ね飛ばした。
 ハンドルに嫌な感触が伝わってくる。ドライバーをやっていて初めて動物・・・人型の生物を跳ねてしまった。

 女が、ハンドルを握った。女はハンドルを回った状態で固定している。

 女が俺の足の上に乗っている、踏み込みを緩める事ができない。

 ディアナが急発進。

 舗装されていない路面での急ハンドル。

 ディアナがスライドする。

 後輪がスライドする。横に居たゴブリンどもを跳ね飛ばす。馬車の残骸が後輪に当たったのだろう。なにか破壊する嫌な音がする。

「おい!手を離せ!」
「え?」

 意味が通じたようだ。
 女は、ハンドルから手を離した。

 ハンドルを緩やかに戻してしっかり固定する。パドルでクラッチを外す。踏み込んだ状態のアクセルを戻す。

 周りを確認するが砂が舞い上がって何も確認できない。落ち着くまで少しかかるだろう。

 女を観察する。どうやら、お姫様ではなさそうだ。

 町娘風だ。お姫様じゃ無かったか・・・。まだ、大商人の娘やお忍びで来ている近隣諸国のお姫様の可能性だってある!

 しょうがない。女である事は間違いない。それに、ファーストコンタクトだ!大切にしよう。

 まだ、俺が差し出した手を握っている。本人も意識していないのだろう。

 年齢は、多分高校を卒業したくらいか?未成年でなければOKだ。何がOKなのかはわからないが、法律に触れなければ大丈夫だ。

 おっぱいは・・・。小さい。まぁ巨乳派ではないから問題ない。巨大よりは、小さいくらいの方がいい。

 髪の毛は、金髪だ。
 かなり汚れている。鎖骨を越えるくらいの長さがある。顔は、一瞬しか見ることができていない。今は、震えて俯いてしまっている。

 握られた手や服から覗く腕や脚は、若さがある事がわかるが、多少汚れているように見える。

 うーん。やはり、風呂は無いと思ったほうがいいかもしれないな。

 見えている部分に大きな傷はなさそうだ。

 1番の問題は、俺の腿の上で動こうとしない事だ。
 その状態で、汗やらもしかしたらゴブリンに襲われて漏らしているのかもしれない匂いもしている。微妙だが、女の匂いもしている。

 いろいろ聞きたいが、今は落ち着くのを待ったほうがいいだろう。

 周りに居たゴブリンどもの耳障りな声も聞こえない。舞い上がっていた砂も落ち着いたようだ。

”ゴブリン15体討伐”

 ん?全部で16体だったはず。どこかに隠れているのか?吹き飛ばされたけど、生き残ったって事か?

 ディアナが停止してから少し経ってから、エンジンを切る。
 エンジン音がなくなって、静寂が訪れる。