壺の準備に手間取ったが、ドワーフたちの活躍で会議から3日後には、カスパルが運転するアーティファクトで、ディアスとサンドラとデイトリッヒが領都に迎える準備が整った。

 塩100キロと砂糖100キロと胡椒20キロは、強奪される物だ。
 領都で馬車に載せ替えて、王都まで運ばれる。壺には、レッチュ辺境伯の証が刻印されている。

 貴族から王族や貴族に貢物として送られる場合には必ず刻印される。中身に印が付けられない場合には、入れ物に刻印される。
 強盗や野党に襲われて強奪された物品で、貴族の印が刻印されている物品の場合には、見つけた者が貴族である場合には、印を付けた貴族に連絡して買い取らせるのがルールになっている。もし、連絡しないで自分の物として扱った場合には、立証(物的証拠は必要なく、上級貴族の心象で決まる)されてしまえば罪として裁かれてしまうのだ。ヤスは、この事実を知らなかったが、サンドラやドーリスは知っていた。そのために、ヤスの嫌がらせが、嫌がらせで終わるとは思っていないのだ。

 朝に出ようとしたが、ヤスが辺境伯に借りを作りたくないと言い出したので謝礼を用意する時間が必要になった。

 辺境伯に、”嫌がらせ”に協力してくれる謝礼として何を渡したらいいのかサンドラと相談しなければならなくなった。

「サンドラ。謝礼は何が適当だ」

「ヤスさん。先程も言いましたが、辺境伯はリーゼの件で、ヤスさんに”借り”があります」

「解っているけど、”借り”は積み重ねるほど意味があるからな。せっかく優位な状況なのだから、”借り”は作りたくない」

「わかりました。私も、”嫌がらせ”程度で”貸し”を失くすのは痛いと思います。辺境伯に、謝礼として渡すのですよね?」

「そうだな。”謝礼”だな。塩や砂糖は、王家に渡すから辺境伯に同じものでは面白くないだろう?」

 サンドラは、いろいろ考えていたが、いくつかの”謝礼”を提示した。

「うーん。サンドラ。カートはダメだ。キックスケーターかスケートボードか、自転車だな。メンテナンスを考えると、キックスケーターがベストだと思うのだが」

「神殿の様に石が敷き詰められていたり、固く整地されていたり、大きな石で道が綺麗になっていればいいのですが・・・」

「そうなると、自転車か・・・。メンテナンスが出来ないだろう?」

「無理だと思いますが、それでいいのでは無いでしょうか?」

「・・・。そうだな。それでいいのかも知れないな。それで、自転車はどのくらい必要だ?無制限には難しいが、ある程度の数を用意できるぞ?」

 サンドラは、自転車のメンテナンスが神殿だけで行わられると思っていた。実際に、壊れた自転車を工房に持ち込めば修繕される。討伐ポイントを消費して修理されているだけなのだ。ドワーフたちがなんとか自力でコピーの作成を行ったのが、ギヤやチェーンでつまずいてしまった。それだけではなく、各所をしっかりと繋ぎながら動かす技術の再現が出来ないのだ。

「え?」

「一台では、辺境伯も誰かに試させたり出来ないだろう?」

「よろしいのですか?」

「自転車なら広めてもいいと思っているからな。武器を持ったままで乗ったり、輸送が大幅に楽になったりしないからな。それに、人が走るよりも早く移動できるだろうけど、獣人や魔法が得意な者ならもっと早く移動できるだろう?」

「・・・。そうですね。貴族向けの娯楽や自慢するために使う程度だと思います」

「それなら問題は無いだろう。4種類くらいの自転車を各2台でどうだ?」

「それは?」

「ママチャリ、マウンテンバイク、ロードバイクと子供向けだな」

「えぇーと」

「ドーリスが乗っているがママチャリ。リーゼが乗っているのがマウンテンバイク。デイトリッヒが乗っているのがロードバイクだ。子供向けはわかるよな?」

「ヤスさん。それでしたら、マウンテンバイクを3台と子供向けを3台でお願い出来ないでしょうか?」

「いいのか?ほかは?」

「はい。十分です。いや、十分・・・。すぎます」

「わかった。準備する」

「ありがとうございます」

「あとは何かあるか?」

「大丈夫です。カードもヤスさんのマークが入った物でギルドにも登録して申請したら、身分証として正式に認められました」

「でも、一部の街だけなのだろう?」

「それはそうですが、レッチュ領では問題にはなりませんので、大丈夫です」

 サンドラやドーリスから依頼されて、ヤスは認証カードに”家紋”をいれた。マークは何でもいいと言われたので、最初に考えついたのが”大木家”の家紋だったのだ。”丸に桔梗”覚えていた家紋をマルスに伝えて、マルスが認証カードに”神殿の印”として家紋をいれたのだ。
 家紋が入ったカードを、アーティファクトと同列に扱ってギルドに登録したのだ。
 カードは登録した者が魔力を流せば家紋が浮き出る仕組みになっている。黒は、ヤスの身内を示す色で、今はヤス1人だけだ。白は眷属に割り振った。それ以外は、住民を示す色になっている。

 ギルドに申請を出して、サンドラが辺境伯に話をした。翌日には、レッチュ領だけではなく王都や辺境伯の派閥でも身分証として使えると返事が来た。それだけではなく、ギルドが警備を行っている街や村では、税を納める必要がない状況にもなった。
 ヤスを喜ばせたのは、入る時の税金だけではなく、荷物にも税金がかからない状況になったのだ。
 荷物は、荷馬車や荷物に対して税を課す場合がほとんどだ。そのため、前回ヤスは街の中で荷物の受け渡しをしなかった。セミトレーラの大きさも問題になったのだが、税の問題も存在していたのだ。サンドラと辺境伯と王都に居るハインツがうまい言い回しをした。ヤスのアーティファクトを、馬が牽かなくても高速で走る馬車だと説明したのだ。
 ギルドはアーティファクトの登録を行っているので概要は把握しているが、荷物がどれほど載せられるのかを把握していなかった。
 馬車程度の運搬なら、神殿の主と険悪な関係になるよりも税を失くして、恩を売る方向に舵をきったのだ。

「わかった。それじゃ頼むな」

 話を聞いていたマルスが自転車を用意した。
 ナンバーリングと家紋を入れて、カスパルが運転する”ダブルキャブ”に載せて、領都まで移動させる。

 そこで、サンドラは領主の屋敷で報告や今後の話をする。
 デイトリッヒは、そこから荷物を領主から受け取って、王都に向かう。

 カスパルとディアスは、そのまま領都で神殿の都(テンプルシュテット)で準備が出来ない。服や靴を購入して帰ってくる。デートも兼ねているのだが、カスパルが皆の心遣いに気がつくかわからない。密かに、ヤスとリーゼとドーリスとミーシャで賭けが行われている。
 ヤスは、何もない方に賭けている。

 カスパルが領都に向けて出発してから、間を1日開けて、セバスが同じく領都に向かうのだが、神殿を夕方に出て、朝方に領都に到着するように調整した。
 サンドラからの要望だった。

 セバスは領都の中には入らない。サンドラを領都で拾って、ヤスが王都に向かった時と同じルートを通って王都に向かう。

 王家に献上する物として、塩と砂糖と胡椒だけではなく、飴玉も加えられた。どこで話を聞いたのか、リーゼが絶対に飴玉のほうがいいと言い出したのだ。物は試しと飴玉も加えた。
 そして、料理をしていないリーゼでは気が付かなかったが、リーゼのキッチンを見たドーリスがヤスに詰め寄った物も王家への献上品に加えた。

「ヤスさん!」

「どうした?ドーリス。キッチンの使い方は同じだろう?サードも居るからお茶の場所も解っただろう?」

「お茶はありました。問題はありません。問題はありませんが、他に見つけた物が問題です」

「だから?」「ドーリス。落ち着いたら?サードがお茶を持ってきたよ?」

「ヤスさんも、リーゼも・・・。ふぅ・・・。私だけがおかしいと思われるのは違うような気がしますが・・・」

「ドーリス?」「私は普通だよ?おかしいのは、ヤスだけだよ?」

「リーゼが、王家への献上品に飴玉をいれた時には、さすがだと思いました」

「そうでしょ!ヤスだと気が付かないだろうね!」

「えぇそうですね。でも、リーゼ。キッチンを使っていれば、もっと貴重な物が置かれていたのに気がついたと思いますよ?」

「え?そう?お茶?コーヒー?」

「そうですね。それも超が付く高級品ですし、酒精の飲み物も喜ばれるでしょうが、それよりも・・・。これです」

 ドーリスが二人の前に出したのは、ハチミツだ。ヤスは解っていない。
 この世界にもハチミツがあるのは教えられていた。だから、ハチミツは貢物に加えなかったのだ。

「リーゼは解ったみたいですね」

「うん。これが、ハチミツだったよね。ヤスから普通に渡されたから、同じ名前の違う物だと思ったよ」

「舐めなかったのですか?」

「ドーリスは舐められる?」

「無理ですね」「でしょ!」

 二人の言い方を不思議や表情で見ているヤスに、ドーリスが説明した。

「ヤスさん。ハチミツはこんなに透明ではありません」

「え?違うの?俺は、これが普通だと思っているぞ?」

「いえ、もっと濁っていますし、こんなに大量にありません」

「・・・。そうなのか?」

 リーゼもドーリスも頷いている。

「これは貢物になるか?20キロくらいでいいか?」

「・・・」「・・・」

「ん?少ない?そうだよな。ハチミツだからな」

「違います。1キロでも多すぎます」

 ドーリスが訂正するが、1キロ単位でしか交換できないので、1キロが最低単位になってしまう。
 ハチミツで思い出したヤスはサードに神殿からメイプルシロップを取ってこさせた。甘さに二人は驚いた。

 そして、両方とも献上品に加えられた。

 セバスが荷物を載せたダブルキャブで領都に向けて出発した。