ヤスはエミリアに命じて結界を解除した。
「ヤス殿。感謝します」
コンラートが近づいてきて、まずヤスに感謝の言葉を口にした。
ヤスはコンラートの言葉を流しながらドーリスに話しかける。
「いや、それは良いけど・・・。ドーリス。もう出られるのか?次の街に行こう」
「いえ、領主から依頼がありまして、その関係で彼らに来てもらいました」
襲撃犯を完全に無視してヤスとドーリスは話をしているのだが、目の前で拘束された連中がなにか文句を言っている。
「・・・。はぁ・・・。ドーリス。そこで転がっている芋虫以下の奴らは潰していいか?うるさくてたまらない。セミトレーラなら簡単に潰せるぞ?」
もちろん、実行するつもりは無いのだが恐怖を与えるには十分なセリフだ。
第二分隊の連中はヤスの言葉を受けて、ディアナがエンジンを”ふかした”だけで黙ってしまった。
鎧を着込んだ1人の男性がヤスの前に出て頭を下げる。
「神殿の主様。第二分隊の処遇は守備隊に預からせて欲しい」
「え?」
「ダメでしょうか?」
「いや、もともと俺が捕縛したわけではないし、必要ない。むしろ連れて行って欲しい」
「感謝いたす」
隊長は深々と頭を下げた。
「それだけですか?」
ヤスは本題が別にあるのは、ドーリスのセリフからわかっていたのだが、どんな依頼なのかわからないので自分から聞けなかった。
「いえ、失礼しました。私は、守備隊の隊長をやっている。フォルツと言います。神殿の主様。領主からの依頼があります。受けていただけませんか?」
ヤスは、ドーリスと一緒に来ていたコンラートを見る。
しかし、動かないので、自分が話を進める必要があると判断した。
「フォルツ殿。私のことは、ヤスと呼んで欲しい。神殿の主と呼ばれるのは好きじゃない。それで、依頼とは?物品を運ぶしか出来ないぞ?」
「わかりました。ヤス様。領主の依頼は、”とある村に塩を運んで欲しい”とのことです」
「塩?」
「塩の供給が途絶えると死活問題です。村には定期的に塩を運んでいたのですが、スタンピードやその後の問題で運び手が集められなくて、ヤス様なら運べるのではないかと期待しております」
「ドーリス。村の所在は聞いているのか?」
ヤスは、ドーリスが知っていると考えて、カマをかける意味もありいきなりとドーリスに聞いた。
「場所はわかります」
「わかった。ドーリス。コンラート。冒険者ギルドで依頼として処理できるのか?」
コンラートがドーリスを手で制してからヤスに答えるようだ。
「ヤス殿。冒険者ギルドでは受けられません。ドーリス殿が神殿の街にあるギルドの代表として依頼を処理しなければなりません」
え?という顔をするドーリスだったのだが当然だ。
ヤスは独立した国”相当”と考えられる。そのために、ドーリスが正式な就任前だが、神殿の街にあるギルドとして依頼を処理する必要があったのだ。
だが、ドーリスとしては最後の依頼として領都の冒険者ギルドが処理を行うものと考えていた。
「そうか?それでは、ドーリスが受け付ければいいのだな?」
「はい」
「ドーリス。頼む。運送料は、ドーリスに任せる。相場がわからないから俺が口出ししないほうがいいだろう」
「わかりました。それで、ヤス殿。塩は馬車に積んでほしいのですが、全部を載せられますか?」
ヤスは、後ろから来ている馬車を見る。
「2台だけか?」
「そうです」
「塩は、ツボかなにかに入っているのか?」
「いえ、木箱に入っています」
「それなら積み重ねても大丈夫だな。十分に持っていけるぞ」
それから、コンテナの一つを開けて馬車で持ってきていた塩の積み込みを始める。
ヤスが積み込みを監視しながらコンラートが塩が入っている箱の個数を数える。
ドーリスと隊長のフォルツは離れた場所で運搬費の相談をし始めた。ヤスの承認を得ていると言っても安い料金で受けるわけには行かない。今回限りの料金設定をしても問題ないのだが、今後を考えるとある程度の形を決めた料金にしたほうがいいのはお互いにわかっている。
荷物を運ぶのは小規模の商隊にとっては糧を得るために丁度いい。そして、その商隊を護衛する者たちにも糊口を凌ぐためにも無いと困る依頼なのだ。アーティファクトを基準にすると料金が安くなってしまう。護衛が必要ないので当然だろう。
二人の出した結論は、料金は通常の商隊に依頼する場合の2倍にする。『時間を買う』や『安全を買う』と認識してもらうのだ。依頼場所までの移動費も含まれるために実際にはそれほど高くないのだが、依頼が続発しても対応できない。アーティファクトが使える者が増えてきたら値引きも考慮するという話で落ち着いた。
「ドーリス。積み終わったぞ?」
「え?全部ですか?」
「他にその村に持っていく物があればまだ余裕が有るぞ?」
セミトレーラに積まれたコンテナの扉が開けられているのを、二人は唖然として見る。
「・・・。ドーリス殿。あの鉄の箱の中身が空だと知っていましたか?」
「いえ、知っていたら、2倍ではなく、3倍か4倍と言いました」
「そうですよね。私も箱と箱の間に積み込みが行われるものと思っていました」
大型の馬車二台分の塩がコンテナの中に積み込まれている。コンテナは1/3も入っていない。
「ヤス殿。動くのですか?」
「ん?あぁ大丈夫だ。この・・・。あ!これは、コンテナというのだけどな。これが満杯になっても大丈夫だ。速度は出ないけど、動くぞ?ユーラットから神殿に向かう程度の山道じゃ問題なく上がれるぞ。2つとも満杯にしても問題ない」
「え?前の箱も中身は空なのですか?」
「そうだぞ?見てみるか?」
「いえ、大丈夫です。そうですか・・・。馬車10台分以上の荷物が詰めるのですね」
「うーん。これは、セミトレーラというアーティファクトだけど、フルトレーラにしたらこの倍は詰めるぞ?山道はつらいけど・・・。タイヤを変えればなんとかなるだろう」
ヤスの言葉を聞いて二人は頭を抱えた。輸送量と時間を考えると2倍でも安いと感じてしまう可能性が高い。
ドーリスがヤスの言っていた内容を思い出した。
「あ!ヤス殿。でも、人は運ばないのですよね?」
「あぁ道案内が必要な場合は別だけど人は運ばない」
「どんなに金貨を積まれても?」
「人を運ぶのは面倒だしいろいろ制約がある」
二人は、ヤスの言っている制約をアーティファクトの制約だと解釈した。ヤスが言っている制約は、日本に居たときの法律的なことだ。日本の法律のおよばない場所なのだから、”関係がない”と言えるのだが、なんとなく人だけは運ばないと決めているのだ。
「ドーリス殿?」
「フォルツ様。ヤス殿は人を運びません。したがって、行商人には該当しないと思います。運んだ先で商売をしません。大量の物資を運ぶだけです」
「だから・・・。あ!そうか、それなら、さっきの設定で問題ないのだな」
「そうです」
ドーリスがフォルツと決めた契約に納得したので、正式に契約を行う。場所は、コンラートがギルドに用意した。
馬車は第二分隊の連中を載せて領主の館に移動する。ヤスとコンラートとドーリスとフォルツはギルドの個室に入って契約を締結した。
「ヤス様。お願いいたします」
「物資の運搬なら俺の仕事だ。しっかりと運ぶよ。村で運ばれた塩の確認をしてもらえばいいのだよな?」
「はい。ヤス様。領主様からの書簡をお渡しいたします。村長に渡せばわかるようになっています」
「わかった。村長に渡して、受領書をもらってくればいいのか?」
「受領書?」
「ん?村長が確かに受け取ったという書類がなければどうやって荷物が届いたと証明する?」
ヤスは思い違いをしていた。
領都からユーラットに武器や防具を運んだときにも受領書はなかった。依頼した物が届かない場合が多い世界だ。届いた受け取った場所で料金の支払いがを行う。今回の様なレギュラーな輸送の場合でも、護衛に守備隊がついたり、第三者が一緒に村まで行ったり、信頼する者が確認するのだ。そのために、受領書という考えは無い。ヤスの場合には、荷物だけを預かって確実に届ける。届いた荷物の確認は、先方とヤスで行うので、受領書がないと困ると考えたのだ。
ヤスの考えを聞いて3人は関心をした。
新しい考え方だが、アーティファクトを使った運搬では必要になる。今回は、ドーリスがギルドの人間として村に話をして輸送を見届ける。
王都からの帰りに、領都に寄って守備隊から料金をもらう契約になった。
契約に納得したヤスは、ドーリスと一緒にセミトレーラに乗り込んだ。
もちろん、コンテナを確認した。しっかりと固定されているのは当然だとして荷物が偏っていないことを含めて入念に行った。
エンジンに火をいれて、アクセルを踏み込むとゆっくりとした動きでセミトレーラが動き出した。
それを、塀の上からコンラートとフォルツは見送ったのだ。
フォルツから報告を聞いた。
神殿の主は、強者の雰囲気は一切纏っていないと説明された。フォルツが腰の剣を振り下ろせば殺せると思えてしまったようだ。
しかし、フォルツが試しに殺気を神殿の主に向けて踏み込もうとした瞬間に自分が殺されているビジョンしか見えてこなかったと言っている。強者ではないが、逆らってはダメな人間だ。フォルツは、儂に進言してくる。
「クラウス様。神殿の主。ヤス様と敵対しないでください。敵対したときには、全力で逃げてください。何分間の時間を稼げるかわかりませんが全力で間に入ります。もしかしたら秒で終わってしまうかも知れませんがクラウス様が逃げる時間を稼いでみせます」
「フォルツ。お前がそこまで言うのか?」
フォルツは王都で行われる武芸大会でも上位入賞の常連だ。
隠れた強者も居るだろうが、王国で5本の指に入る強者であるのは間違いない。そのフォルツが殺される未来しか見えないと言っている。
「はい。クラウス様。私のスキルはご存知だと思います」
もちろん知っている。
フォルツのスキルは、”危険感知”と”未来予測”だ。数秒後の未来が予測できるというスキルだが万能ではない。フォルツが持っている経験の上でしか成り立たない。しかし、有用なスキルである。フォルツのスキルで命を救われたのは一度や二度ではない。
「スキルが今までに無いくらいに警告をしてきました」
「そうか、不気味だな。でも、それは神殿の主である。ヤス殿の個人の武勇ではないのか?」
「わかりません。個人の武勇かもしれません。しかし、第二分隊の奴らが全力で攻撃して傷一つ付かないアーティファクトはそれだけで驚異です。第二分隊の練度が低いと言っても・・・」
「そうか、それが有ったか・・・。個人でも、フォルスを超える武勇を持ち、アーティファクトを操るか・・・。敵対は愚の骨頂だな」
「はい」
「そうなると、第二分隊とランドルフの処遇はしっかりと考えないとダメだな」
「クラウス様」
「今は、儂とフォルスしか居ない。忌憚のない意見が欲しい」
「ありがとうございます。第二分隊の全員・・・。参加していない者を含めて、奴隷に落として、ランドルフ様の護衛にしてはどうでしょうか?」
「ん?護衛?そうだな。主人は?ランドルフにして、ランドルフが死んだら、奴隷も死ぬようにすればいいのか?」
ランドルフは、死ななければならない。しかし、儂が死罪を言い出せるタイミングは過ぎてしまっている。
暗殺の実行も領地内では好ましくない。やはり、ドーリス殿の提案に乗るのが良いのだろう。
「クラウス様?」
フォルスを交えて詳細に決めなければならない。
実行は、フォルスに・・・。いや、ドーリス殿はなんて言っていた?
神殿を管理している者が居ると言っていなかったか?
「フォルス。悪いが、魔通信機を使う。一緒に来てくれ」
「はっ」
魔通信機は、会話が遮断される部屋に設置している。小型の物もあるが、この屋敷に設置してあるのは大型のものだ。複数の人間が、一つの魔通信機で同時に会話ができる物だ。
フォルスが部屋に入ったので、まずは会話が遮断される魔道具を発動する。これで、外部に話し声が漏れない。
数回の呼び出し音で相手が応答した。
『神殿の都ギルド、マスター代理。サンドラ』
「伯爵領内領都クラウス・フォン・デリウス=レッチュ」
「同じくフォルツ」
『お父様?フォルツ?』
「サンドラに質問と状況を教えて欲しい」
『お父様。その前に、ヤス様は?』
「エルスドルフに塩を運んでもらっている」
『ドーリスは承諾したのですか?』
「承諾した。依頼として正式に受諾してもらった」
『わかりました。なぜ?エルスドルフなのですか?あっそうですね。リップル子爵領を避けたのですね』
「そうだ。それで、ヤス殿のアーティファクトに攻撃をしていた第二分隊を捕縛した」
『え?馬鹿なのですか?お兄さまの命令だったのですか?』
「今、調査中だ」
『わかりました。それで、神殿の都ギルドにご連絡のご用件は?』
「話が早くて助かる。サンドラ。神殿を預かっている。セバス殿とはどういった方だ?」
『え?』
フォルツにも聞かせていた話しだが、ドーリスの提案を話した。
「ドーリスの提案だが、儂は採用しようと思うのだが、不確定要素としてセバス殿が挙げられる。サンドラ。セバス殿は見えたのか?」
『お父様。私は、今神殿の都ギルドの人間です。安々と情報をそれも大事な人に関係する情報を流すとお思いですか?』
「思っていない。思っていないが、教えて欲しい」
『セバス殿は”見えません”でした』
「そうか・・・。お前は、この提案はどう思う?」
『ドーリスとセバスが話をしている場に、私もいました。かなり怒り心頭だったのも事実です』
「わかった」
『お父様。お待ち下さい。セバスがギルドに来ました』
「是非、話をしたい」
『聞いてきます』
なんとタイミングがいい。
魔通信機に出たセバス殿は、物腰が柔らかそうな声をしていた。
だが、ヤス殿への忠誠心は強いのだろう。アーティファクトに攻撃を受けたという報告をフォルスがしたときに、魔通信機から流れてくる声の情報だけだが殺気が伝わってきたと思えてしまった。フォルスも感じたのだろう。儂と魔通信機の間に割り込むように立ちふさがった。
すぐに殺気は消えたが恐ろしかった。
そして、セバス殿からお願いは告げられた。
『レッチュ辺境伯閣下。旦那様に攻撃を加えた者たちの処遇は私たちにおまかせいただけますか?』
「セバス殿。ヤス殿から、私たちに任せるという言葉を頂いています。セバス殿のお気持ちはわかりますが抑えていただけないだろうか?」
フォルツが神殿の主からもらった言葉を盾にセバス殿への譲歩を引き出そうとしている。
儂は、第二分隊とランドルフは神殿に差し出しても構わないと思っている。それで友好関係が結べるのなら安いものだ。
『フォルツ殿。申し訳ない。私の説明が足りませんでした。実行部隊を私たちにお任せいただけないでしょうか?』
「実行部隊?」
『はい。旦那様には眷属が居ます』
「クラウス様!セバス殿の話は・・・」
「しかし、セバス殿。よろしいのですか?第二分隊といえ戦闘訓練を受けています」
『それは、オーガ種を単独で倒せるレベルですか?隊としてオーガの変異種を数体まとめて倒せる練度ですか?』
「え?オーガですか?無理ですね。単独なら、ゴブリンの上位種が限界で、隊としてはオークと対等に戦えます」
『そうですか・・・。その程度なら、100や200でも対処は可能です。オーガの変異種を単独で撃破できるのなら、同数は必要だと思っていました。良かったです』
「・・・」「セバス殿?」
『大丈夫です。旦那様の眷属に魔物種も居ますが、私の眷属に帝国の武装をつけさせます。旦那様との関わりは隠せます』
「わかりました。セバス殿に一任で大丈夫ですか?」
『大丈夫です。それで、必要な死体は?』
「え?」
『旦那様への攻撃を行った愚か者を簡単に殺してしまっては、私がマルス様や他の者に叱責されてしまいます』
「そうか・・・。息子のランドルフが死亡したと思わせられれば十分だな」
『死体が必要ですか?』
「ん?」
『戦闘の後があり血まみれの死体が転がっている状況ならどうですか?』
「クラウス様!その方が・・・」
「そうだな。セバス殿。お願い出来ますか?」
『わかりました。第二分隊の中で、旦那様に攻撃をしなかった者は居ますか?』
「居るが?全員が奴隷落ちの予定だ」
『奴隷にしなくて大丈夫です。その代わり、攻撃に参加しなかった者を、先に引き渡していただくことは出来ますか?』
セバス殿から詳細な作戦が語られた。
ドーリス殿から伝えられた作戦よりも実行の手間が少なく得られる物が多い。何より神殿との繋がりが作られる。
『旦那様は関係がありません。セバス・セバスチャンが考案して実行します。問題はありませんよね?』
「問題ない。儂とフォルツは、第二分隊の数名をユーラットに向かわせる。サンドラに物資を届けるためだ。そして、ランドルフを使者として送り出す。護衛は、ランドルフが隊長になっている第二分隊の者たちだ。使者の役目として不安もあるので、ランドルフの母親も同行する」
ランドルフの母親も一緒に送り出すのは決定事項だ。
一緒に奴が領地から連れてきた侍女も送り出す。身の回りの世話が必要だろう。
セバス殿には申し訳ないが、我が領の厄介事が一気に片付く。
神殿に大きな借りができる形になるのだが、今更、借りの一つくらい増えても問題はない。セバス殿と秘密の共有が出来たことが大きい。
魔通信機を切断した。
結界を発動したままフォルツと話を詰める。
神殿の主。
どのような人物なのか・・・。セバス殿と話をして余計にわからなくなった。
「ドーリス。こっちでいいのか?」
「はい。間違いないです」
「わかった。速度を落とすから、曲がるのなら教えてくれ」
「はい」
ヤスは、山道を走っている。
山道と言ってもほぼ一本道だ。山道に進路を変更するときに、ドーリスの指示が遅れてUターンして戻った経緯があるので、ヤスはそれから速度を緩めるようにした。
「今更だけど、今から向かう村の名前を教えてくれ」
「そうでした。説明していませんでした。村の名前は、『エルスドルフ』という名前です」
「なぜその村に塩を届ける?」
「何も無い村で、交易品が無いので塩の購入が難しいので、領主が定期的に送っているのです」
「聞き方が悪かったな。なぜ塩を”無償”で送るのだ?」
「あっそういう意味ですか・・・。領主の奥さんのお母さんがエルスドルフの出身なのです。サンドラと長男のハインツ様から見たら祖母にあたる人です」
「へぇ村の出なのだな。貴族じゃなかったのか?」
「いえ・・・。そういう意味では、準男爵ですが貴族です」
「ん?祖父が準男爵なのか?」
「いえ、祖母が女性ながらに準男爵なのです」
「へぇ・・・」
ヤスは難しい話になりそうだったので、興味がなくなってしまった。
道幅が狭くなってきたので、運転に集中し始めた。
ヤスが運転に集中し始めると車速が上がり始める。ドーリスも車速があがったのを感知してだまり始めてしまった。
FITと同じく結界を張っているので、崖から落ちたりしない限りは大丈夫なのだが、それでも砂利道で滑る音や石を弾く音、木を折る音は聞き慣れないと恐怖を覚えるのに十分な音だ。
『マスター。前方500メートルに種族名ゴブリンと思われる小集団。こちらに向かってきます』
エミリアからの報告を聞いて、ヤスは速度を緩めた。ドーリスが不思議そうにヤスの顔を見る。
徐行といえる速度まで減速した。
「数は?」
「え?」
「あぁドーリス。すまん。前方にゴブリンらしき小集団が居る。数の確認をしようとした所だ」
「え?」
「アーティファクトの能力だと思ってくれ」
「・・・。はぁわかりました」
「それで、ドーリス。ゴブリンは殺していいよな?」
「大丈夫です。というよりも、可能でしたら討伐してください」
「わかった。エミリア。街道に出てきたら教えてくれ」
『了。数は、7体です。上位種らしき反応があります。街道をまっすぐに向かってきます』
「ドーリス。ゴブリンが7体。上位種が居るかもしれない。討伐するぞ!」
「はい」
ヤスはアクセルを一気に踏み込む。
砂利道でミューが低くホイルスピンをするが、構わずアクセルを踏む。
坂道だが徐々に加速する。
『接触します』
「行くぞ!」
「はい!」
ドーリスはシートベルトを”ぎゅ”と握っているが前をしっかりと見据えている。今から発生する状況を目に焼き付けるためだ。
視認できたゴブリンに向けてハンドルを切る。
塩を積んでいるので無茶な運転は出来ない。
『エミリア。打ち損じたゴブリンを魔法で攻撃できるか?』
『可能です』
『跳ね飛ばしても意識があるゴブリンを含めて雷魔法で攻撃』
『了』
ヤスはゴブリンの集団を正面に捉えて跳ね飛ばす。
上位種と思われる体躯が二回りほど大きなゴブリンがセミトレーラの前に立ちはだかるが、速度と質量で跳ね飛ばした。
「・・・」
「終わったか?」
『討伐が完了しました』
ドーリスは口を開けて唖然としていた。
「ヤス殿?」
「討伐は終わったぞ?あっ!すまん。魔石の回収は無理だ」
「いえ、それはしょうがないです・・・」
「なにかおかしいか?」
「おかしくない所を探すのが無理です」
ヤスはドーリスの言い方が面白かったのか笑い始めた。
「そうか!でも、降りて戦うよりは安全だぞ?」
「わかりました。ホブゴブリンの亜種が居たようでしたね」
「そうなのか?」
「はい。でも、討伐されたので、村に報告はしておきます。個体数は?」
「そうか、村に出てきたら問題だよな。個体数は、ちょっとまってくれ」
「そうです。ホブゴブリンの亜種が村に入ると全滅もありえます」
『マスター。討伐数は、8体です』
「ドーリス。全部で8体の討伐で、小集団は全滅した」
「わかりました。あっ!その先は山道と左に入る道があって、左です」
「わかった」
ドーリスの指示は直前に告げられたのだが、カーブに差し掛かっていて速度を緩めた状態だったのでギリギリ減速が間に合って曲がれた。
「あれがそうか?」
「はい。エルスドルフです」
「どこに止めればいい?」
「そうですね。あまり近づいても不審に思われますので、この辺りで・・・。あっあの辺りで停めてください。村長に話をしてきます」
「わかった」
ドーリスが示した場所は、村から300mほど離れた開けられた空き地だ。ヤスがセミトレーラを滑り込ませ、停車させた。ドーリスを降ろすと、ヤスは運転席に戻って、エミリアに周辺の索敵を開始させた。
「エミリア。今度、遠出するときには、眷属の誰かを連れてくるか?」
『マスター。意味がわかりません』
「セバスが連れてきた魔の森に生息していた魔物を連れてくれば、停車中の警戒とかで役立つだろう?領都で行われたような蛮行は別にして、さっきみたいなときにも魔石を回収したりできるだろう?」
『可能です。神殿で調整します』
「わかった。頼む。無理なら無理でいいからな」
『了』
ヤスが他愛もない考えをエミリアに伝えている頃。ドーリスはエルスドルフの門で事情を説明していた。
領主から貰ってきた書状が役立っていた。すぐに村長に会えて、アーティファクトの説明と塩を持ってきたと説明した。道中にゴブリンが出現して討伐したが、魔石が残されている可能性があると説明すると、村長は休んでいた門番の二人に回収を命じた。現金収入に乏しい寒村では魔石を得るチャンスは逃したくないのだ。
話を終えたドーリスがヤスの所に戻ってきた。
「それで?」
「問題ないです。塩を降ろしたいのですが・・・」
「わかった。村の前まで移動した方がいいか?」
「そうですね。そうしてください」
「わかった。ドーリスは、道を開けるように言ってくれ」
「はい」
ドーリスがアーティファクトを見に来た村人に声をかけて道を開けるように指示する。
ヤスは、狭い場所だったので何度も切り返しを行って、後ろから村に向かった。その方が塩を降ろしやすいだろうとおもったのだ。結界は解除した。
村の門の手前にセミトレーラを停めて、後ろのコンテナを開ける。
ドーリスもわかっていたのだろう、村長にお願いして塩を運び出し始めた。荷降ろしに時間が必要になりそうだったので、ヤスは村の中を散策して待つことにした。村人もドーリスもアーティファクトを操作してきて疲れているのだろうから休んでくれと言われたのが一番の理由だ。
(おぉぉぉぉぉぉ!!!!!あれは!!!!)
『マスター。心拍数が異常です』
『エミリア!あれは大豆だ!それに、米がある!唐辛子もある!この村は宝の山だぞ!なんで、現金がないとか言っている!』
ヤスは畑の近くで休んでいる老人に話しかける。
「ご老人。お忙しい時間にもうしわけない。その植物は?」
「お貴族様?これは、”うるち”ですが、お貴族様が食べるような物ではありません。不作になりにくいので、予備で作っているだけの作物です。普段は、家畜の餌や魔物対策で作っています」
「え?食べない?あなた達も?」
「馬鹿なことを言わないで欲しい、こんなまずい物は飢饉が発生した時にだけ・・・」
「え?そうなのですか?作るのが大変とか?」
「ハハハ。変わったお貴族様だ。そんなに珍しいのか?この辺りなら適当に撒いておくだけで勝手に育つ」
「領都では見かけませんでしたが?」
「だから、家畜の餌だと言っている。それに、魔物が好んで食べるから領都では禁止されている」
「え?危なくないのですか?」
「危ないぞ?でも、収穫した物を森にまとめて放置しておけばそれを食べて満足して帰るからな。この村では昔から一定数を育てている」
「一年に一回の収穫ではそれほど数が揃わないのでは?」
「本当に、おかしなお貴族様だな。そっちの豆と同じで年に4回ほど収穫できる」
「豆も・・・。ですか?その”うるち”と豆を買えますか?」
「ほしいのか?」
「はい。ものすごく!」
「村長と相談だな。魔物対策だからむやみに売れない」
「わかりました。それなら・・・」
ヤスは、ポケットから出すフリをして金貨を1枚取り出した。
「それなら、これで買えるだけ買わせてください。今から王都に行くので、帰りにまたよります」
ヤスが老人に詰め寄っているように見えたのだろう、後ろからドーリスと村長が慌てて駆け寄ってきた。事情を説明したヤスだが、村長とドーリスに呆れられてしまった。
「神殿の主様」
「ヤスでいい?それで、村長。売ってもらえないのか?」
「売るのに問題はありません。是非とお願いしたい所です」
「なら!」
ヤスが珍しくのめり込む状態になっている。
「ヤス殿。村長が言っているのは、”金貨”では村中の食物を買ってもお釣りが来ることが問題なのです」
「え?そうなの?」
ヤスは唖然とした。確かに貨幣価値から考えたら100万だが貴重な物を購入するのだからそのくらいはするだろうと安易に考えた。
しかし、老人も村長もドーリスも皆が頷いているのを見て自分が間違っていたと悟った。
ヤスの交渉は難航した。
理由は簡単だ。ヤスが”金貨”しか提示しなかったからだ。今回は、王都で大量の物資を買うので細かい硬貨よりも金貨で精算しようと思っていたのだ。足りなければ、ギルドから引き出せばいいと考えていた。
街々での購入も、ギルドに預けている硬貨で購入すればいいと思っていたのだ。
「村長。ヤス殿の条件でよろしいですか?」
「問題はありませんが、ヤス様はよろしいのですか?」
交渉をさっさと切り上げたいのは、村長もドーリスも同じだった。
ヤスが拘っているだけなのだ。そこで、ドーリスはヤスから条件を聞いた。
ヤスが出した条件は、米と大豆を定期的に購入できればいいというものだった。
村長はヤスに村人を雇わないかと提案してきた。村なら金貨一枚でもあれば1家族が余裕を持って6ヶ月は生活できる。金貨2枚で1年だ。
「問題ない。むしろいいのか?」
「何が問題でもありますか?」
ヤスに雇われた家族は米と大豆を作る。作られた作物は全部ヤスの物になる。
問題は不作になってしまったときだが、ヤスは気にしなくてもいいと言ったのだが、村長とドーリスは取り決めをするようだ。簡単に言えば、ヤスに村民を差し出す条件で決まった。奴隷という形だ。そうならないために、”不作にならないようにがんばります”と村長はヤスに握手を求めた
ヤスは、契約の意味を込めて差し出された村長の手を握り返した。
ドーリスも安堵の表情を浮かべる。
「村長。ドーリス。金貨1枚じゃ半年だろう?あと、5枚渡すから、3年間の契約で頼む。そうしたら、一年の不作でも翌年に頑張れば取り戻せるだろう?」
「いいのですか?」
村長が、ヤスに聞き返す。
「俺もその方が嬉しい。それに、米・・・。うるちはこの辺りではこの村でしか栽培していないのだろう?気候が影響しているのか知らないが、それならしっかりと栽培してくれる方が嬉しい」
「わかりました。ありがとうございます」
「そうだ!村長、もし知っていたら教えてほしいのだけど、豆を使った調味料をしらないか、黒に近い茶色の様な液体の調味料や、他にはやはり豆を使ったもので液体じゃなくて茶色や白っぽい調味料だが?」
「液体は知りませんが、もう一つは村で作っています。エルフ豆で作られていた物を真似て作った物です」
「エルフ豆?」
村長の言葉の中にあったエルフ豆がヤスは気になった。
ドーリスが簡単に説明してくれた。
「ヤス殿。エルフ豆は、この村で作っている豆の原型だと言われている物で、もう少し粒が大きいのが特徴で、エルフが住まう森で栽培されています」
「へぇ・・・。ロブアンが俺に出した納豆なんかの材料なのだな」
「え?ヤス殿はエルフ豆を食べたのですか?あんな腐った匂いがする物を食べたのですか?」
「納豆ですか?美味しいですよ?あ!うるちが手に入るから!!」
ヤスが何に興奮し始めたのかわからない二人は顔を見合わせる。
言葉遣いもおかしなことになっている。
「あ!村長。豆を使った調味料を見せていただきたいのですがありますか?」
「あります。この村では、お湯に溶かして飲んだりしていますが?」
「いえ、調味料だけ見せてください」
「はい・・・。わかりました」
村長が持ってきたのは、ヤスが異世界に来てから欲しかった物の中でもトップ5に入る物だ。
ちなみに不動のトップ1は”彼女”だと思っているようだが・・・。業が深い。
味噌
ヤスが慣れ親しんだ、甘口味噌ではなかったのだが味噌には違いない。味は調整すればいい。味はこれから開発していけばいい。
村長は、ヤスがこれほど興奮しているのかわからない。味噌は、薄い野菜汁に味をつけるために使う程度しか使いみちが無いと考えられていた。長期保存ができるので、保存食の意味合いしかない物なのだ。
ヤスは家庭ごとに味が違うと聞いて、各家庭で作られている味噌を購入した。
ヤスに取っては有意義な交渉を終えて、王都に向かう移動を再開した。村から出る時には、ヤスは村人から感謝されながら見送られた。
寒村に塩を運んできただけではなく、村としては価値が低いと思っていた物が戦略級の物資になった。神殿の主が望む物だとわかったのだ。現金収入が乏しい村に現金を落としていったのだ。村長は村の主だった者を集めて話し合いを行った。一つの家が担当するよりも、村でヤスの要望に応えようと話が決まった。個々の負担も減り恩恵も皆が享受できるのだ。
そんな状況を作ったヤスは欲しかった米と大豆と味噌が手に入って上機嫌でセミトレーラを走らせている。
ドーリスは何がそんなに嬉しかったのかわからなかった。
『マスター。マルスです。念話でお願いします』
『どうした?』
『マスターがお持ちになっていた本に、”日本酒”や”醤油”や”味噌”などの作成方法が書かれて居ます。再現しますか?』
『本当か?』
『はい。他にも、ウォッカやテキーラなどの酒精を生成する方法も記載されていました。かなりの数の酒精の生産が可能です』
『わかった。あとは、原材料だな』
『はい。必要な材料をエミリアで参照できるようにします。道具に関しては、種族名ドワーフが再現します。鉄鉱石や石英と言った道具に必要な材料は神殿の迷宮区で生成します』
『そうだな。迷宮に潜られるのか?』
『種族名ドワーフやギルドに登録した者が入り始めます』
『わかった。無理はさせるなよ』
『了』
『そうだ。マルス。俺の側に誰かを控えさせることはできるか?』
『可能です』
『誰が適切だと思う?』
『定義が曖昧です。マスターのお望みは?』
『停車時の抑止力と偵察が目的だな。ディアナの索敵でも十分だけど、わかりやすい抑止力が欲しい。アーティファクトだと知ると奪おうとする馬鹿が多い』
『大きさが変えられる者が良いと考えます』
『そうだな』
『マスター命名の狼。猫。鷲の3種を推薦します』
『魔の森に行っているのではなかったのか?』
『現在魔の森への護衛業務は、彼らの眷属が行っています』
『わかった。3体に連絡を頼む。次からは一緒に行動してもらう。食事はどうなる?』
『彼らは、進化を終えています。神殿に属している状態です。マスターの魔力で十分です。食事は嗜好品です』
『誰を連れて行くのかマルスに任せる。身体の大きさが変えられるのなら、モンキー以外なら大丈夫だろう?』
『はい。問題ありません』
ヤスはいろいろと突っ込みたい気持ちを抑えながらマルスと会話を続けた。
その間も、中継になっている村や町への道を指示する。その後の町や村に寄る時には、ヤスはセミトレーラに乗ったままで待っている。領都のギルトから連絡が届いているのか交渉はスムーズに終わった。
スムーズに行き過ぎて、途中で一泊する予定が最後の町まで到着してしまった。
「どうする?」
主体性がない聞き方になってしまったが、他に適当な聞き方がなかった。
「最後の町のギルドで、王都に居るハインツ様に連絡しました。驚いていらっしゃいましたが、夜遅くなっても門番に言えばわかるようになっています」
「それなら安心だな。俺は、門の外でアーティファクトの中で寝る。ドーリスは、ハインツ殿と条件やらいろいろと決めてくれ、それから金貨を渡しておくから、物資の購入も頼む」
道が綺麗になったので、ヤスはアクセルを踏み込む。
セミトレーラは速度を上げて、王都に向かう。途中で休んでいる商隊を横目にヤスはアクセスを緩めずに走る。
辺りが暗くなってきて、ドーリスは間に合わなかったかと思ったのだが、ヤスはライトをつけて速度を緩めずに走る。
ハイビームに照らされて、王都の門が見えてきた。数名の門番が動いているのがわかる。
ヤスは速度を緩めてからハイビームを解除する。ゆっくりとした速度で王都に近づいていく。
ヤスが門に到着した時には、綺麗な格好をした男性と護衛と思われる兵士が10名ほど門の外に出ていた。
ヤスが門の前にセミトレーラを止めると、護衛の兵士がセミトレーラの前方にやってきた。
顔が引きつっているのがわかる。ヤスは笑いをこらえて、ライトを落としてからセミトレーラのエンジンを停止した。エンジン音がなくなり静寂が訪れる。
「ヤス殿。ハインツ様と話をしてきます」
「わかった。一旦降りるけど、俺は中で待っているよ」
「わかりました」
ディアナの座席の配置の関係で、先にヤスが降りなければならない。ついでドーリスが降りる。
1人の男性が近づいてきたので、ヤスは警戒しながらエミリアに命じて結界を解除する。
「神殿の主殿。私は、ハインツ・フォン・レッチュです。デリウス=レッチュ伯爵家の長男です。弟の」
ハインツが頭を下げようとするのを、ヤスが手で制した。
「ハインツ殿。謝罪の必要はありません。辺境伯より、仕事を受けてきました。ヤスと言います。神殿の主と呼ばれるのは好きでは無いので、ヤスと呼んでください」
「失礼致しました。ヤス殿。それに荷物を運んでいただけると聞いていますが?」
「はい。依頼をお受けいたしました。ドーリスに一任していますので、彼女と話をしてください。それから、彼女が泊まれる場所の手配をお願いいたします。それから、ドーリスに手配を頼んでありますが、物資の購入のサポートをお願いいたします」
「物資に関しては、承知した。宿はもちろん手配しておりますが、ヤス殿は?」
「私は、アーティファクトの中で寝ます。王都では安心できるとは思いますが、レッチュ伯爵領の領都ではアーティファクトを攻撃してきた者がいました。問題ないとは思いますが、万が一に備えます」
ヤスは、ドーリスに話しかけるようにしながら、近くまで来ていたハインツに聞こえるように言っている。
現実に、ハインツの護衛たちはヤスの言い方で気分を害したのだが、主であるハインツが制したので暴発しないで居る。
「ハインツ様。神殿の都のギルドマスターを務めることになりましたドーリスです。よろしくお願いいたします」
「話は聞いている。妹もそちらで厄介になるらしいな」
「はい。サンドラ様にはギルドで私の補佐をしてもらっています」
「妹は神殿に入っているのか?」
「神殿の都で生活を開始しております」
「なに?神殿は何もなかったのではないのか?」
「ハインツ様。神殿の都は、すでに建物も数多くあります。ギルドの支部も存在しております。住む場所も十分に確保されています。今、無いのは当座を凌げるだけの食料だけです」
「同じ様な報告が妹から来ている。本当なのだな?妹が野宿したり、テントで生活したり、そんな生活はしていないのだな?」
「はい。もちろんです」
「そうか・・・(ランドルフの奴がしでかしたことで、かわいい。かわいい。サンドラが神殿に行くことになったと聞いたときには、ランドルフを殺して神殿に特攻をかけようと思っただのが・・・。いや、待て、まだ・・・。ドーリスの言っていることが本当だとは限らない。父も俺を安心させようとしている可能性だってある。サンドラは賢くてかわいいから、俺を心配させまいと健気な嘘をついているに違いない)」
「ハインツ様?」
「あっ。すまない。今日は、休んでくれ、昼には使いを出す」
「わかりました。お待ちしております」
「それで神殿の主殿はどうされるのですか?」
「ヤス様は、アーティファクトの中で休んでいると言っておられます」
ドーリスがハインツと話し始めたら、ヤスは自分の仕事が終わったと言わんばかりにセミトレーラに乗り込んで居住区で横になっている。
「そうか・・・。いろいろ話がしたかったのだが・・・。難しいようだな。神殿の主と言えば一国の王に匹敵すると考えなければならないだろう」
「はい」
「ドーリス殿。私を神殿まで運んでもらえるように、神殿の主殿に頼むことは出来ないか?」
「無理だと思います」
「なぜだ?」
「ヤス様は、人は運ばないとおっしゃっています」
「貴殿は一緒に来たではないか?」
「私は、ヤス様が王都までの道がわからないと言われたので、道案内をしてきただけです」
「なんというか・・・。深く考えないようにする。おい。ドーリス殿を宿まで案内しろ」
護衛で来ていた二人がドーリスを案内してくれるようだ。
ドーリスも二人が女性だったので少しだけ警戒していた気持ちを和らげた。案内された宿は高級な場所だった。すでに宿の料金が支払われていて、食事や湯浴み用のお湯までついていた。
ドーリスは、神殿の都を懐かしく思いながら、硬いベッドに身体を預けた。
「あぁ・・ぁ・・・。神殿のベッドの方がいいな。お布団が柔らかいし・・・」
ドーリスは、布団に文句を言いながら(精神的に)疲れた身体を横にしていた。
数分後、ドーリスの泊まった部屋から寝息が聞こえてきた。
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ドーリスが布団の上で睡魔に負けた時、ヤスも居住区で横になって目を閉じていた。本人は寝ていないと主張するかも知れないが、すでに精神は夢の世界に旅立っている。マルスが、エミリアに命令して多重結界を発動した。朝まで、ヤスに静かに寝てもらうためだ。
ヤスとドーリスが眠るについている頃。
王都にある辺境伯の屋敷では、二人の男性が先程出会った二人のことを話していた。
ひとりは、辺境伯の長男ハインツだ。もうひとりは、初老の男性だ。
「キース。貴様は、どう見た?」
「神殿の主殿ですか?」
「あぁ。ドーリスは、ギルドの職員だという話だ。サンドラからも報告が来ている。問題にはならないだろう」
「そうですな。ドーリス様は、頭の回転は早いのでしょう。坊っちゃんの話をうまく誘導していた印象があります」
「キース。坊っちゃんはやめろ」
「失礼しました。ハインツ様」
「それで?」
「ヤス様は、よくわかりません」
「わからない?鑑定したのだろう?」
「はい。鑑定を発動しましたが、弾かれました。表層の情報しか読み取れませんでした」
「なに?本当か?」
キースは、護衛に混じって神殿の主であるヤスを見るために門まで行った。辺境伯であるレッチュ伯爵家に使える執事であり、ハインツの教育係をしていた。ハインツが、王都で生活をするようになってからは、ハインツ付きの家宰を兼ねるようになっている。
二人が話しているのは、王都にあるレッチュ辺境伯の屋敷にある執務室だ。本来の主は、父親であるクラウスなのだが、クラウスからいずれハインツが引き継ぐのだから屋敷の管理を含めて全部を任せている。
「はい。名前。年齢。性別。種族だけ見ることが出来ました」
「・・・。キース。たしか、スキル看破を持っていたよな?使ったのか?」
「はい。使いました。鑑定と併用することで、隠されたスキルも見られます。ステータスも見ることが出来ませんでした」
「そうか・・・。神殿の主は、伊達ではないか?」
「はい。わからないのが不気味です。それだけではなく、アーティファクトもよくわかりませんでした」
「見たのか?」
「はい」
「それで?」
「数字が並んでいることはわかりましたが、数字の意味だと思われる場所は読むことが出来ませんでした」
「見えなかったわけではないのだな?」
「はい。記号のような物が書かれているだけです」
「そうか、何かしらのステータスなのだろう」
二人は沈黙してしまった。
神殿の主を見たら対策を考えると言っていたのだが、対策を建てるためのデータが不足している。サンドラから情報は来ているのだが、全部が真実であるとは思えなかったのだ。そのために、二人はヤスの実力を測ろうとしたのだ。
ヤスのステータスは最初に隠蔽された状態から多少変わっている。鑑定の効果を持っているサンドラの魔眼の様なスキルの存在がわかった関係で、マルスはステータスの完全隠蔽を実行した。多少見えていると、そこから推測する人たちが居た。そのために、完全に隠蔽してしまうことで、推測もさせない上位の存在だと思わせる状態を選んだ。
「やはり、妹や父様が言っていた通り、取り込むのは無理で、友好関係を築くように動くか」
「それがよろしいと思います。正直、”逃げる”のはできると思いますが、ハインツ様をお守りして逃げるのは不可能だと感じました」
「そうか・・・。アーティファクトだけでもと思ったが、あれは手をだしていい代物ではなさそうだな」
ハインツは、キースが持ってきた蜂蜜酒を煽ってから、出された水を一気に飲み干した。
「キース。明日は、当初の予定通り、物資の提供を行う。サンドラから来ていた追加の依頼も大丈夫だな?」
「はい。滞りなく準備が終わっています。ただ・・・」
「リップル子爵家だな。気にするな。父様からも気にする必要はないと言われている。直接的な妨害はしてこないだろう」
「はい。かしこまりました」
キースは一礼して部屋から退出した。
残されたハインツは椅子に深々と座り、大きなため息をついた。
「・・・。厄介な問題だ・・・。ふぅ・・・」
ハインツは、コップに残っていた蜂蜜酒で喉を湿らせてから隣室のベッドに潜り込んだ。
ヤスは、居住スペースで目を覚ました。
『マスター。おはようございます』
『マルスか?』
『はい。報告はエミリアがいたしますが、昨晩は、誰からも攻撃はありませんでした』
『そうか、ありがとう。ドーリスは?』
『まだ来ていません』
『わかった。近くに来たら教えてくれ』
『了』
ヤスが起きてマルスに指示を出している頃。
ドーリスは、冒険者ギルドで神殿の都の承認申請を行っていた。すでに根回しは終わっているので、軽く質問されただけで終わった。
ギルドマスターになる祝詞を宣言するだけで終わった。
他のギルドでも同じことを繰り返すだけだ。
通常なら、新しくギルドマスターに就任すると僻みが多く手続きに時間がかかるのだが、神殿のギルドは事情が違っている。
神殿が独立した場所であることが関係しているのだが。それ以上に、攻略されたばかりの神殿のために、建物も何もないと思われているからだ。ドーリスもダーホスも”仮のギルド”で運営を始めるとだけ伝えている。
攻略されたばかりの神殿で”仮”のギルドと言えば皆が考えるのがテント一つで行われているのだろうと推測する。
そのために、ドーリスが”左遷”させられたと考える職員も多いのだ。
時間がかかると思っていた手続きも全部終わった。
ダーホスやクラウス辺境伯の根回しが聞いているようだ。ギルドには、神殿の主であるヤスを敵に回すのを回避したいという理由もあった。
「昼前に終わってしまいました。ハインツ様が来るまで宿で待っていましょう」
ドーリスは誰に伝えるわけでもなく独り言をつぶやいた。
そして、ハインツが用意した宿に足を向けた。
宿の前には、ハインツの使いと思われる者が待っていた。
「神殿の都ギルドのドーリス様。ハインツの指示を受けて、ドーリス様をお迎えに上がりました」
昨日宿屋にドーリスを案内した女性がハインツからの指示だという証拠として、ハインツが署名した指示書をドーリスに見せた。
ドーリスは納得して、案内をお願いした。
ドーリスが案内されたのは、王都にある商人が管理している倉庫だ。ハインツが借りて物資を積み上げている場所だ。
「ドーリス様。サンドラ様から依頼がありました物資です」
ドーリスは倉庫を見回す。大丈夫だと思えたのだが、全部が積み込めるか自信がなかった。
「神殿の主であるヤス様に直接見て確認していただきたいのですが問題はありますか?」
「問題はありません。人手も用意しております」
「助かります」
ドーリスは、頭を下げて門に急いだ。
(あぁぁぁ。神殿に有ったアーティファクトを持ってくればよかった!)
ヤスが乗って待っているアーティファクトまでを急いだ。
ヤスはヤスで寝るのも飽きてしまってエミリアでいろいろ調べたり文章を読んだり時間を潰していた。
『マスター。個体名ドーリスが近づいてきています』
「わかった。ありがとう」
ヤスは、居住スペースから出て、セミトレーラから降りた。
「ヤス殿!」
「どうだった?」
「物資は準備してくれました。ただ、私では積みきれるかわからないので、ヤス殿に確認していただきたい」
「わかった。どこ?」
門は、ハインツが指示しているので問題なく通過出来た。
倉庫までの距離があったのはヤスも計算外だったようだ。途中で戻ってセミトレーラを動かそうかと本気で考えたようだ。
ドーリスがうまく誘導して屋台で買い物をしながら移動した。
倉庫には、護衛と荷物を運ぶ人足が20名ほどと荷馬車が待っていた。
案内された倉庫の中を見て、ヤスは”狭い”と感じた。
倉庫と聞いていたので、小学校の体育館くらいの大きさを考えていたのだが、通された場所はコンテナ2つ分もない程度の広さの場所だ。
「問題ない。全部積み込める」
ヤスが断言する。木箱に入っている物資は部屋の2/3程度の面積だ。天井まで積み上がっているわけではないので、荷物としてはコンテナ一つ分程度だろうと推測した。
ヤスの言葉を聞いて、ドーリスがハインツの護衛だった者たちに指示を出す。
ヤスとドーリスは、最初に荷物を積み込んだ荷馬車でアーティファクトまで移動する。
荷物を積み込むと聞いて、ハインツがキースを連れてやってきた。その後、ドーリスが午前中に回ったギルドからも人が門に集まりだした。
ヤスのアーティファクトを見るためだ。ステータスも気になるのだが、本当に荷物が全部積めるのかが気になっているようだ。
ヤスとドーリスが乗る馬車が到着して、ドーリスが見物人に距離を取るようにお願いする。
ヤスがコンテナを開けるだけで、見ていた者たちからどよめきが発生する。
皆がコンテナの中は空洞になっているとは思っていなかったようだ。アーティファクトが動く理由が載せているコンテナにあると思っていたのだ。見ているドーリスは驚かなかった。コンテナが開いたのを確認してから指示を出している。
事前にヤスから重い箱を下にして、軽い物を上に重ねるように言われている。一箇所に荷物が偏らないようにも言われているのだ。
積み込みを始めると、見物人も興味が出たのか、コンテナの近くまで来て観察を始める。
荷物の積み込みは、それほど大変ではなかったのだが、倉庫からの運搬に時間が必要だった。
荷馬車が居ない時に、ハインツはキースを伴ってヤスに話しかけようとしたが、ドーリスがギルドの関係者を紹介し始めたので話しかけられなかった。
倉庫に有った物資がコンテナに積み込まれた。
「ドーリス。これで全部か?」
「はい。全部です」
「よし!神殿に帰るか!」
ヤスが移動を開始した。
ハインツとキースが近づいてきてヤスに声をかけた。
「ヤス殿!」
「はい?なんでしょうか?」
振り返って、ハインツだとわかっても態度は変えないヤスに周りからどよめきが発生した。
「ヤス殿。私たちを神殿まで連れて行ってもらえないでしょうか?」
「無理です」
一刀両断という感じで断ってしまう。
「なぜですか?」
「俺は”人”を運ばない。ドーリスは、道案内をしてもらっただけで、運んできたわけではない」
「人を運ばない理由をお聞きしたいのですが?」
ハインツとしては、人を運ばない理由がわからない。
これだけのアーティファクトなのだから、人を乗せれば大量に運ぶことができる。キースは、ヤスとハインツのやり取りを見て、ヤスの真意を図ろうとしていた。
「まず、王都に乗ってきたアーティファクトは人を載せられる構造になっていない。それ以上に、俺が人を運びたくない」
「ハインツ様。ヤス様は、人を運ぶ仕事をしたくないと言っているように思えます」
「そうなのか?」
「ハインツ様。ヤス様にご確認しては意味がありません」
キースは、ハインツとヤスの少ないやり取りでヤスの考えを推測した。
その上で、今までハインツから聞いていた話を合致させて一つの結論に達していた。
「ヤス様。私は、キースと言います。ハインツ様の執事をしております」
「ヤスだ。それで?」
「ヤス様にいくつかご質問があります」
「ん?」
「ヤス様は、”人”は運ばないと言われていますが、”生物”を運ぶのは問題ないのですか?」
「条件次第だが、運ぶぞ?」
「ありがとうございます。ヤス様が手中にした神殿にはアーティファクトがあるとお聞きしました。”人”を運ぶのに適したアーティファクトは存在しますか?」
「存在する。だが、誰もが操作できる物ではない」
「重々承知しております。訓練してもダメなのでしょうか?例えば、私がヤス様から訓練を受けて、人を運ぶアーティファクトを操作できるようになりますか?」
「多分だがキース殿では無理だろう。訓練すれば必ず操作できるようになる物ではない。俺も条件はわからない」
「そうですか・・・。条件がわかる方法はありませんか?」
「神殿の施設を使えれば、資質は有ると思うが、それ以降は努力次第だな」
「ありがとうございます」
「ハインツ様。ヤス様の言い方では、辺境伯家の者にアーティファクトの操作を覚えさせるのは難しいと思います。違う付き合い方を考えたほうが良いと思います」
「・・・。キースがそういうのなら大きくは違っていないだろう。わかった。サンドラに確認する」
「それがよろしいかと思います」
キースは、ハインツを説得する形になったが、ヤスの主張が認められた。
セミトレーラが動き出してしばらく経ってから、ドーリスがヤスに話しかける。
王都に向かう行程ではアーティファクトを動かすには魔力と精神力を使うと思って無駄な話はしないようにしていたのだが、ヤスが大丈夫だと言ったので、ドーリスも気にしないで話しかけるようになった。
「ヤス殿」
「そうだ!ドーリスも、”殿”とか”様”とか付けないで欲しいけどダメか?」
ヤスは、以前から気になっていたのだ。
”殿”とか”様”とか言われるのが好きじゃない。できれば、神殿の主と言われるのも止めてほしいと思っていた。
「良いのですか?」
「別に、俺が偉いわけでもないからな。”さん”付けならなんとか許容できる」
「わかりました。ヤスさん」
「それで頼む。サンドラとか神殿に住んでいる連中にも頼むな。セバスとかは何度も言っているけど直してくれないから諦めるとしても、神殿に住んでいる連中なら”さん”付けの方がいい」
「ハハハ。わかりました。サンドラには言っておきますし、他にも、様を付けそうなディアスやカスパルにも言っておきます」
「頼む。神殿の外ではダメなのだろう?」
「はい。申し訳ないのですが、神殿の主として紹介しますので、ご勘弁ください」
ヤスもそのくらいはわかっている。
神殿の中だけでもフランクに付き合いたいと思っているのだ。
「わかった。神殿に住んでいる者や俺を守る意味もあるのだろうから諦める」
「はい。誰かに紹介する時には、流石に”様”を付けないわけにはいきません。疑われてしまいます」
「疑われる?」
「あ!いえ・・。あの・・・」
「ドーリス?」
ヤスは、ハンドルを握りながら、ドーリスを問いただす。
「サンドラやディアスとも話したのですが、私たちがあまりヤスさんの近くに居ると、妾になったり、女性を差し出したりすればアーティファクトが操作できると思われるのも問題が出てきます」
今、アーティファクトに乗れているのは、外から見るとカスパルだけだ。実際には、リーゼもサンドラもドーリスもディアスも操作できるのだが、カートと自転車と原付きの運転が楽しくて、車にたどり着いていない。
ミーシャとデイトリッヒは、神殿への帰属意識よりもリーゼへの感情が勝っているのでカート場にさえ降りられない。もちろん、アーティファクトを操作することも出来ない。自転車は辛うじてできるのだが、動力を使う物は全滅なのだ。
「うーん。今更だと思うけどな?違うか?」
「え?あっ・・・。そうなのですが、これまでは辺境伯やサンドラが抑えてくれていますが、違う貴族が出てきたら話が違ってきます。それに、あっ・・・。なんでも無いです」
「ドーリス?」
「・・・」
ヤスは、カーナビの黒い画面に映るドーリスを見る。
「すでに、私やサンドラはヤスさんの妾だと思われています」
「そう?妾?本妻は?」
「リーゼです」
「はぁ?俺は、子供には興味がない」
「・・・。そうですか?」
「・・・。なんだよ。ドーリス?」
「いえ、なんでも無いです」
ドーリスは、ヤスの外見から10代後半だと予測していた。そして、リーゼは17歳だと聞いていた。
そのために、お似合いであると思っていたのだ。リーゼがハーフエルフだと知らなかったのだが、知ってからはヤスとリーゼなら年齢的にも丁度良いのではと思っていたのだ。サンドラもディアスも同じように思っていたのだ。
そして、領都から移住してきた者たちは、リーゼがヤスの正妻だから移住が許されたと思っているのだ。
ヤスもリーゼも本人たちは住民から”最低でも恋人”だと考えられていると思っていないので、何も言っていない。言っていないので住民たちは皆が見守ることとなったのだ。
「そうか・・・。ドーリス。帰りも同じルートでいいのか?」
これ以上の話を聞くのが面倒になったヤスはいきなり話を変えた。
「はい。そうですね。行きと違って荷物の積み込みがあるので、遅くなりますが問題はありませんか?」
「問題ないな・・・。そうなるとどこかで一泊する必要があるかな?アーティファクトなら夜中でも移動できるけど、村や町の門は閉まっちゃうだろ?」
行きは、エルスドルフ以外の村や町で、ドーリスだけが降りて村や町に入ってギルドに挨拶をして物資を集める依頼を出す。日持ちは気にしないで食料を中心に集めてほしいという依頼を出していた。各ギルドで金貨1-5枚程度だ。
そのために、帰りに集めてもらっている物資の搬入が待っているのだ。期間が短くて集まらない場所も有ったとは思うが、それでも各ギルドに顔を出して状況を聞く必要がある。
「そうですね。どこでも、ギルド職員用の宿泊所を持っているので、そこに泊まれますが・・・」
「ん?俺は気にしなくていい。アーティファクトの中で寝られるからな。食事だけはどこかで買ってきて欲しいけどな」
「わかりました」
雑談を絡めながら、ヤスはドーリスに神殿の生活で不便がないかを聞いていた。
ドーリスの答えは簡潔だった。”神殿の生活が快適すぎて他の町に行けない”だった。
ギルドの近くに作った建物や住んでもらう場所は、ヤスは自重して作ったつもりだった。
サンドラでさえドーリスと同じで帰りたくないと言い出しているのだ。他の者が、ヤスに感謝しているのだ。徐々に神殿への帰属意識が芽生えているので、カート場に降りられる人数も徐々に増えていくのは間違いない。
困っていた日用品も、ユーラットとの交易が始まって少しは落ち着いたようだ。
同時に、ドワーフたちが酒造りの合間に日用品を作っているので、神殿に居る限り食料以外で困らない状況にはなってきている。
ヤスは、ドーリスから状況を聞いて安心した。
食料は、今回の輸送で落ち着くとサンドラから聞いている。生活が落ち着き始めて数名は狩りや採取に出ている。神殿の周りからの採取や狩りで必要な食料は揃う。したがってあと1-2回買い出しにいけば飢える心配がなくなる。
「そうか、それなら問題はなさそうだな」
「はい」
2箇所の村で購入した物資を詰め込んだ。
次の町までの距離を考えると、次の町で暗くなってしまうだろう。
「ドーリス。次の町で休もう」
「わかりました」
ライトが必要になる手前で、町に到着した。
ヤスは、宣言通りに居住スペースで寝る。
夕ご飯は、ドーリスが町の食堂に依頼してくれた。ヤスは、食堂からの出前を受け取って居住スペースで食べた。食器は、朝に回収しに来ると説明された。
夜、居住スペースの明かりを落とした。
横になって目を閉じた。
ヤスが寝息を立て始めてどのくらい経過しただろう。
セミトレーラを見つめる視線がいくつか現れた。結界には近づいてこないので、マルスもヤスには知らせていない。
---
セミトレーラを囲むようにしているのは、5人の男女だ。
1人は、貴族風の格好をしているが若い男だ。そして、他の4人は同じ様な服装をしている。冒険者と言われればそうなのかも知れないというレベルだ。
貴族風の男が、4人組のリーダの胸座を掴みながら問いただす。
「間違いないのか?」
「はい。間違いありません」
リーダの男は、貴族風の男の掴んでいた腕を払いながら答える。
「なんとかならないのか?」
「無理です」
「貴様!無理とかなんだ!俺のために、なんとかしようと思わないのか?」
「出来ない事は出来ません。それに、俺の仕事は、貴方様をアーティファクトの所まで連れてくる事で、アーティファクトを手に入れる事はありません。老婆心ながら言っておきますが、神殿を攻略した者に対抗しようなどと思わないほうが良いと思います」
「煩い!あの神殿は俺が攻略するはずだったのだ!それを・・・」
「はい。はい。そうですね。俺たちはここで手を引かせてもらいます」
「な!貴様ら!」
「契約した内容は終わりました。後はご自由に!お得意の魔法で攻撃してみるのもよいと思いますよ。あのアーティファクトに通じれば、ですけどね。俺は、ゴブリンのようになりたくないのでね」
リーダは、他の3人に指示をして、その場から立ち去る。
残されたのは、貴族風の若い男と、御者が居ない馬車と繋がれた馬だけだ。
『マスター。個体名ドーリスが近づいてきています』
マルスは、居住スペースで寝ているヤスを起こす。
起こすのはそれほど難しくない。
「おはようございます」
ドーリスが運転席にたどり着く頃にはヤスも起きて外に出ていた。
「おはよう。荷物の積み込みか?」
「はい。お願い出来ますか?」
「わかった。コンテナを開けて待っている。この町では何が手に入る?」
「今までと同じです。主に、イモ類です」
「わかった。積み込みの監視は頼む」
「はい。ギルドも人を出してくれるので大丈夫です」
ヤスが監視を気にするのは、2つ前の村で荷物を運び込んでいる時に、荷物にまぎれて数名がコンテナに潜り込もうとしたのだ。
マルスがコンテナに潜んでいる男たちに気がついて、ヤスに伝えた。ドーリスがギルドに文句を言って問題が発覚したのだ。
潜り込もうとした連中は、最後まで依頼主は話さなかったが、どこかの貴族のバカボンに依頼されたのは間違いなさそうだ。何が目的だったのかは、判明している。コンテナに潜り込んで、夜中にヤスがアーティファクトから離れた所でコンテナから出て(馬車の様な物だと思っていたようで中から開けられると考えていた)アーティファクトを盗むつもりで居たようだ。
それだけではなく、依頼主は神殿の正当な持ち主だと主張していて、ヤスが自分から神殿を奪った罪人だと言っていたらしい。だからなのか、ヤスを殺して、ドーリスを脅して神殿まで案内させて神殿を乗っ取ろうと思っていたようだ。色々矛盾した証言だが、捕らえられた者たちの証言なので信じる者は居なかった。
マルスが危惧したのは、人ではない。
コンテナに潜り込んでも、振動で気を失うだけだ。外に出ようと思っても簡単には出られない。密閉度も高いので、長時間中に居ると酸欠状態になってひどければ命を落とす危険性もある。
人は、それほど心配していない。マルスは、人ではなく魔道具が持ち込まれないのかを気にしていた。途中で爆破されたり、毒で汚染されたりしたら損失だけではなく、ヤスの立場がなくなってしまう(可能性を危惧していた)。
「積み終わったら教えてくれ」
「わかりました」
ヤスは、マルスに監視を頼んでバックミラーで積み込みの様子を見守っている。
問題になりそうな行動はなかった。
ヤスから見える部分の積荷がコンテナの中に積み込まれた。
ドーリスが門の所に来ていた誰かに呼ばれたようだ。
「ヤスさん。ギルドマスターが呼んでいるので行ってきます。俺は行かなくて良いのか?」
「問題ないです。ギルドマスターが私に内密な話だと行っています。荷物は積み終わりました」
「わかった。コンテナを閉じて待っている」
「はい。どのくらいかかるのかわかりません。申し訳ありませんが待っていてください」
「大丈夫。結界を発動するから皆に離れるように言ってくれ」
「かしこまりました」
ドーリスと一緒にヤスもコンテナの中身を確認する。しっかりと積み込まれた荷物を見てチェックを行う。目視での確認だが、しっかりと確認を行った。中に人が入り込んでいない事が確認出来た。魔道具が持ち込まれているとエミリアが知らせる仕組みになっている。
二人で調べて問題がなかったので、ヤスは扉を締める。
人足や見物に来ていた者たちには、ドーリスがアーティファクトから離れるようにお願いする。
見物している者たちが距離を取ったので、ヤスはエミリアを操作して結界を発動させる。
エミリアに結界の内側を調べさせた。ヤス以外の生物が居ない状態を確認した。
ヤスがセミトレーラの運転席に戻って結界内をモニタリングし始めた時に、ドーリスはギルドマスターと話を始めていた。
---
ドーリスは、呼び出されたギルドマスターから内密の話がしたいとギルドまで移動するように言われた。
すでにヤスに断りを入れているし、ギルドマスターの深刻な顔を見て、なにか重大な案件が発生していると判断した。それも、ヤスではなく自分だけを呼び出しているので、ギルドに関連した問題であると判断した。
ドーリスを連れたギルドマスターが部屋に案内した。
ギルドマスター自ら案内したので、ドーリスは厄介事である可能性を考えた。
「ドーリス。いや、ドーリス殿」
「今まで通り、ドーリスでお願いします」
「そうか・・・」
「それで何があったのですか?」
「ふぅ・・・。まずはこれを読んでくれ」
ギルドマスターは持っていた羊皮紙をドーリスにわたす。
目を通して、ドーリスの表情が一気にこわばる。怒りに似た感情がそこには加わっている。
「ゼークト様!」
「ドーリス。わかっている。ギルドは、ダーホスとドーリスの宣言を尊重するのは決定事項だ。それに、アフネス殿とデリウス=レッチュ辺境伯の署名もある。ギルドは動かない」
「当然です!神殿の都のギルドマスターとして正式に抗議を入れます」
「・・・。頼む。抗議は待って欲しい」
「なぜですか?完全に言いがかりですよ?」
ドーリスが見た羊皮紙にかかれている内容は、神殿の正当な持ち主はリップル子爵家であるという大前提があり。神殿を攻略したと嘯いた上でアーティファクトを無断で使っているヤスの捕縛に関する依頼書だ。依頼料は、ヤスが持っている総資産の半分となっている。
リップル子爵領のギルドが正式に受諾した依頼書になっている。
依頼の日付はヤスとドーリスが領都に立ち寄った日になっている。
「だから、わかっている。すでに認められている。正式な書類にもなっている」
「ならばなぜ!」
「ドーリスもわかるだろう?」
「わかりません」
「ドーリス!」
「・・・」
「わかるだろう。ギルドが正式に受けてしまっているのだ」
「だったら!」
「そうだ。リップル子爵領のギルドに問い合わせをしたが返事はない」
「・・・」
「ドーリス。教えてくれ、あのアーティファクトは、誰にでも動かせるのか?」
「ヤス様は、無理だと言っています。実際に、私は動かせません」
実際には、ドーリスは動かせるのだが訓練を受けていないので、動かせないと答えた。
エンジンをかけることはできるし、アクセルを踏み込めば動かせるのだがそれだけなのだ。ハンドルの操作やアクセルとブレーキの役割は、カートで理解出来ているのだが、実際にうごかそうと思うとそれだけではない。だから、動かせないと答えたのだ。
「そうか・・・。俺が少し練習して、あのアーティファクトの操作ができると思うか?」
「無理です。多分、動かす前準備も出来ないでしょう」
ゼークトと呼ばれたギルドマスターはドーリスの返答は予測が出来ていた。なので、話を変えてヤスについて質問する。
「神殿の主殿は、温厚か?」
「どうでしょう。懐にいれた人間には優しいでしょう。甘いと言ってもいいかも知れませんが、敵対者には厳しいと思います」
「なぜそう思った?」
「領都での話は聞いていますか?」
「聞いている」
「ヤス様は、領都での事がありながら、サンドラを受け入れました。それだけではなく、ハインツ様や領主様とも良好な関係を築いています。領都からの移民も”ほぼ”無条件で受け入れています」
「そうか・・・」
「はい。しかし、敵対した者たちには厳しいと思います」
「なにかあったのか?」
「神殿に不利益になるような行動をした者たちを捕縛したまでは良いのですが、神殿に連れて行って・・・。出てきた者は1人もいません。本当に、1人も許されていないのです」
ドーリスは勘違いをしていた。
ヤスが厳しいのではなく、ヤスに対して敵対行動を取った者たちを、マルスや眷属が許さなかっただけなのだ。
「・・・」
「ゼークト様?」
「リップル子爵領以外では、この依頼書は破棄させるようにする」
「わかりました。それだけですか?」
「もし、この依頼を受けた奴が襲撃してきて、神殿の主殿が反撃して殺してしまっても問題ないと宣言させよう」
「わかりました。ヤス様に、告げてもいいですよね?」
「ドーリスの判断に任せる」
「ありがとうございます。この件で、ヤス様とギルドの間が崩れても知りませんよ?」
「しょうがない・・・と、言えないのが悲しいな。わかった。王都のギルドを動かす。できれば、それまでに襲ってきた連中はなるべく殺さないで捕縛して欲しい」
「私では判断できません。ヤス様に全部話しをして判断を仰ぎます」
二人の間に沈黙が流れる。
これ以上は譲歩も進展も無いだろうと考えて、ドーリスは依頼書になっている羊皮紙を持って、ギルドマスターの部屋を出た。
依頼書を破り捨てたい気持ちになっていたのだが、ヤスに見せて、サンドラやディアスの意見も聞きたい。何よりも、証拠として取って置かなければならないことは解っていた。解っているのだが・・・。ドーリスもすっかり神殿の人間になってしまっているようだ。
「リーゼ!それはダメだと思うの!」
姦しい声が地下のカート場に響いている。
神殿のカート場に居るのは、ハーフエルフのリーゼ。帝国から連れてこられたディアス。神殿近くに領地を持つ辺境伯の娘であるサンドラ。
それと、ドワーフの方々だ。
「何がダメなの!問題は無い!ね!サンドラもそう思うでしょ?」
「私を巻き込まないでよ。わたしは、調整で忙しいの!」
3人で会話をしているようにも聞こえるが実際には違っている。
リーゼとディアスはカートでならし走行をしている。サンドラは、ドワーフにお願いして愛機をいじってもらっている。
ヤスとドーリスが王都に向かったタイミングで、サンドラがカートにはまった。
自分で操作できるのが嬉しいのだろう。リーゼとディアスに挑んだ。
3人の中で最初にカートを動かしたのはリーゼだが、カートを理解したのはサンドラではないだろうか?
サンドラは、リーゼとディアスに負けたタイミングで、ツバキに連絡をした。サンドラの要望は、ツバキではわからなかったので、セバスに伝えられてマルスに伝わった。マルスは、ヤスに許可を求めて、ヤスはOKを出した。
サンドラの希望は、カートを専有したいという願いだった。
身長が、リーゼやディアスと比べると低いサンドラでは、カーブのときなどに踏ん張れない。リーゼのラフプレイで外側に弾かれてしまうのだ。
ヤスからのOKが出たサンドラはすぐに行動を起こした。領都に居た時に知り合っていたドワーフが神殿に移住してきたのを確認して、カート場に入られるか確認した。
ドワーフたちは、工房に入ってヤスからの情報提供を受けた。魔道具に関する情報だけでなく、ドワーフたちが調べてもわからなかった新しい酒精のレシピの情報を得て、神殿への帰属意識が高まった。工房に出入りしているドワーフはカート場にも出入りできる状況になっている。
サンドラは、カートの一台に自分の名前を刻んだ。
ドワーフに依頼を出して、ペダルの位置や座席を改良した。それだけではなく、ハンドルの位置など操作しやすいように細かい改良をいれている。
サンドラがカートの改造を始めれば、当然それはリーゼとディアスが改造を始める切っ掛けにもなる。
リーゼとディアスが揉めているのは、リーゼがタイヤにガードを付けて接触した時に相手を吹き飛ばす機構を組み込んだのだ。
リーゼのタイヤカバーは、攻撃に使われるだけではない。コーナーの入り口で強引にイン側に飛び込む時にも有効に作用する。各コーナーのイン側にもアウト側にもタイヤで作られたバイアが存在する。アウト側には、縁石を設置してある場所も有るのだがイン側にはラインがひかれているだけだ。リーゼは、タイヤカバーがあるので、インに強引に飛び込んでも、タイヤバリアにカバーが接触するだけだ。カバーがなければタイヤが接触してバランスを崩すのだが、リーゼは少しだけバランスを崩すだけで曲がれてしまう。
リーゼとディアスの差は、どのコースでも1周回って1秒以内になっている。小さなミスで逆転されてしまうのだ。
「ねぇサンドラ!」
「サンドラ!」
「はい。はい。聞いていますよ。リーゼもディアスもわかったわよ。一緒にルールを考えましょう」
「そうね」
「うん!」
カートは当然だがヤスが用意した時には、同じになっている。討伐ポイントで出しているので当たり前といえば当たり前だ。
エンジン部分や駆動系を含めた足回りはドワーフにも(まだ)改造が出来ない。現状で可能なのはフレームの強化やペダル位置の調整や座席などの調整だけだ。ブレーキの仕組みが解ってきて、ブレーキに手を入れることもできるようにはなってはきている。
3人は、かなりの時間を使ってルールを決めた。
カートは体重の影響は無視できない。
3人の体型は似ていないが、体重にはそれほどの差はない。一番軽いのはディアスだが身長は一番高い。今までの環境が環境だったので肉付きが良くないのだ。リーゼが一番重いのは3人の中ならしょうがないことだろう。サンドラは身長は低いが3人の中である一部が発達している。
三人はお互いの体型を見て、カートの重さ+体重を規定以上にする事が決められた。
リーゼが作ったタイヤガードはルール違反となった。
カートの全長と全幅は、ノーマルのカートから越えてはダメとしたためだ。
レース中のルールも決めた。
ルールは、サンドラが記憶してツバキにお願いしてカート場に張り出される。
セバスとツバキの予想からカート場にはかなりの者が降りてくる状況になると思われたからだ。
ドワーフたちは頑張ってタイヤだけは作られるようになった。
タイヤは消耗品で交換しなければならない。タイヤの交換は、自分のカートを持っている(リーゼ。ディアス。サンドラ。ドーリス)は自分で交換しなければならない。共有のカートを使ってレースをしている場合は、ドワーフがタイヤ交換をする。
常に2-3名のドワーフがカート場に常駐する状況になった。提示された報酬はユーラットならエールを数杯飲める程度だが、ドワーフたちは技術力のアップとアーティファクトを改造できる状況を喜んだ。
ヤスとドーリスが物資を持って、神殿の都に帰ってきた時には、3人の人族と2人のエルフ族の女性がカート場にはいる資格を持った。
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カスパルは、アーティファクトを操作してユーラットに来ていた。
「お!カスパル。操作には慣れたみたいだな」
「えぇまだまだですが、なんとかできるようになりましたよ」
「そりゃぁよかった。今日はどうする?」
「魚が欲しいです。あと、素材の買い取りをお願いします」
「わかった。素材は、ギルドに持っていってくれ、魚はギルドに持っていくように伝えておく」
「お願いします」
カスパルは、決められた場所にKトラックを置いた。ヤスが、カスパル用に交換した物だ。専用ではない。これから、アーティファクトの操作ができる者が増えてきたら運ぶ物でアーティファクトを選ぶようになると教えられている。
今は、ヤスとカスパルとツバキとセバスと眷属だけがアーティファクトの操作が可能なので、ユーラットへの運送はカスパルの役目になっている。眷属はバスを使って、神殿の都を定期運行している。神殿の守りから神殿の入り口までを巡回するバス。西門と神殿の入り口と東門を巡回するバス。神殿の都の外周を巡回するバスが運行されている。
ユーラットに裏門から入ったカスパルは、眷属が採取してきた素材を持ってギルドに向かった。
「ダーホスさんは?」
ユーラットのギルドは以前よりも混み合っている。
神殿が攻略されたと言う情報が流れた事や、領都での事情を聞いた者たちがユーラットにやってきているのだ。攻略されたばかりの神殿は美味しいというのが一般的な認識だ。したがって、ユーラットから神殿に向かおうとする者も居るのだが、結界に阻まれて入られない者が多く出た。手順に従って”神殿に害意”がなければ許可が降りるのだが、一部の者はアーティファクトを奪取するのが目的だったり、神殿の再攻略が目的だったり、許可が降りなかったのだ。一部の者たちは、そのままユーラットに滞在している。行く場所もないので、ギルドと魔の森を往復して日銭を稼いでいる状態なのだ。
そんな状況のギルドに、カスパルが大量の素材を持ち込んでいる。
領都から商隊が向かっているという話もあるので、今後は護衛の任務が生まれるだろう。屯している連中も捌けるだろうが、今は混沌とした状態になっている。
奥の部屋からダーホスが出てくる。
「カスパル。今日も買い取りで良いのか?」
「お願いします。それで、いつもの所に入れておいてください」
「わかった。なにか買っていくのか?」
「魚を頼まれています」
「わかった。料金は買い取りから出せばいいのか?」
「お願いします。俺は、いつもの場所で待っています」
「わかった」
一度、買い取り金額を受け取って帰ろうとしたら、裏門を出た所で襲われたので、それから買い取りで発生した金額はヤスのカードに入れるようにしている。素材も今の所は、眷属が採取してきているので、ヤスが全部を貰っても誰も文句を言わない。
カスパルは、ギルドを出て裏門を抜けた。アフネスに挨拶しようかと立ち寄ったが不在だった。
そのままアーティファクトで待っていると30分くらいしてから魚を大量に持ったギルド職員がやってきた。アーティファクトに積み込んだ。魔道具を発動してから、アーティファクトを動かして神殿に戻る。
朝にKトラックで素材を運搬して物資を持ち帰る。昼にバスに乗り換えてユーラットに向かう。神殿からもユーラットに向かう者が居るためだ。ユーラットから神殿に向かう者たちを載せて帰る。夕方も同じようにバスを使って人を運ぶ。神殿とユーラットの運送がカスパルの仕事となった。