県内に遊園地は一つだけ。

 でも、実家が東京にある課長が、家族でこの遊園地に『今日』来る確率は、いったい、どのくらいなんだろうか?

 よしんば同じ日に来ることが偶然の産物だとしても、こうして鉢合わせする確率は……。

 呆然とする頭の片隅でそんなことをノロノロと考えていたら、さすがに課長。

 絶句状態からすぐさま回復して営業活動に取り掛かり、やおら飯島さんに向かい合うとニッコリと微笑み口を開いた。

「飯島さん、昨日は、お疲れ様でした。二次会、楽しませていただきました」

「いいえ、こちらこそ。楽しかったですよ、とっても」

 課長の鉄壁の営業スマイルVS飯島さんの陽気な好青年スマイル。

バチバチと、見えない火花が散ったように感じた……のは気のせいに違いない。

「高橋さんも、遅くまでご苦労様だったね」

 スッと視線がかち合い笑顔で言われて、ドキンと鼓動が跳ね上がる。

 エレベーターでのキス。コンビニでの会話。

 昨夜の出来事が走馬灯のように脳内を駆け巡り、一気に顔が上気する。

「あ、いいえ、ぜんぜん。私も楽しかったです。課長も昨日は、お疲れ様でした!」

 ガタンと椅子を鳴らして立ち上がりペコリと頭を下げて、ついでに課長の隣の女性にもペコリと挨拶。そのままイスに腰を下ろして、思わず俯く。

 うわー、やばい。

 絶対、顔、赤くなってるよ、これ。

 早く、行ってくれないかな、課長。

 ボロが出る前に行ってください!