目を開くと、そこには広々とした空が広がっていた。
 隣には楠野さんがいた。
 僕は上半身を起こす。そこは、あの家の前の道路だったと思う。けれど、状況が違った。道路が滅茶苦茶に壊れていた。土埃が僅かに舞っており、道路そのものは無数のひび割れと欠損が目立つ。ガードレールは一部が宙をぶら下がっていた。
 僕は、そうしてガードレールの先の景色を見た。
 茫然とした。そこにあった街はどこにもなかった。
 僕は背を向く。
 そこあったはずの家は、そこにあったという証拠も一つもなく消えていた。
「う……ん」
 すると、隣から声がする。楠野さんのものだ。
「楠野さん」
 僕が彼女を優しく肩を揺さぶって起こそうとする。すると、彼女が目を開く。
「……安曇、くん?」
「……よかった」
 僕はホッと知らぬ間に固まっていた肩の力を落とした。それぐらい緊張で固まっていたのだと今、思う。
「私たち、元の場所に帰ってきたって事だよね……?」
「そう、だね」
 そうして彼女は身を起こす。
「……皆、どうなったんだろう。お母さんも、筑音ちゃんもどうなったんだろう……自分勝手に役割放棄して、世界を壊すような事、しちゃったけれど……」
「……自分勝手だったかも、しれない。でも、これは僕たちが決めた事だ。だから、どんな事実を突きつけられても、受け入れよう」
「……うん」
 僕たちはそうして、道を降りていった。
 間近で見た街跡の状態はかなりひどかった。家があった場所はめちゃくちゃになった屋根の残骸や、家具。そしてガラスはバリバリに割れて辺りに散らばっていた。
 そして、それはどこを行っても同じだった。
 人の気配もしなかった。
「……私たち、これからどうなるんだろう」
 彼女は、そう呟いた。