すると、遠くからでもわかった。彼女は目を開けてくれた。
「……安曇、くん?」
「美樹さん! 掴まって!」
 そう言って、僕は彼女に向けて手を伸ばす。彼女は咄嗟に手を伸ばして僕の手を掴もうとする。しかし、一回目は拒まれた。
 突然、下から強烈な風が吹いてきて、僕たちは空中に投げ出される様に浮いた。けれど、それでも僕は彼女を目で追って見つける。そして、彼女に向けてまた手を伸ばす。
 彼女の手を掴めた。しかし、下から強風が僕たちを打ち付けて、また僕たちを離そうとする。僕はもう片方の手で二人を繋ぐ手を離さない様に握りしめる。
「何で、何で来たの? このままだと、大変な事になるってわかってるのに!」
 彼女は僕が来た事を理解できていない様に悲痛に叫ぶ。
 けれど、僕にはちゃんとした理由がある。
 それが、正解か間違いだなんて関係ない。
 ただ、僕は彼女を消そうとする世界が許せない。
「……そんなの、美樹さんを助けに来たからに決まってるよ」
 僕は思いを叫ぶ。
「僕は美樹さんが好きだ! 好きなんだ!」
 また、強風が打ち付けてくる。景色もどんどん移り変わっていく。赤、白、青、黄色とめぐるましく色が変わっていく。今一体どこにいるのかわからない。それは今関係ない。

「だから、僕はただ君に生きていてほしい! 世界がどうなるかなんて関係ないんだ! ただ、君に生きてほしい?」
 
 彼女は目を見開いた。
 そして、
「バカ……」
 そう呟いて、涙をこぼす。
 僕は彼女のもう片方の手を掴む。
「だから……僕は君を助けに来たんだ?」
 すると、激しい光が包み込む。
 その衝撃は強く、僕たちは力なく吹き飛ばされているという感覚を覚えた。そうして――
 ――世界は、崩壊した。

  *