多分、なんだけれどここに入る事ができれば、楠野さんと会える気がする。そのような気がする。僕は穴の中に手を伸ばす。
 すると、光が僕を包み込んで行って、
 僕の目の前は真っ白になった。

  *

 目を覚ますと、そこに見えた景色はあの破壊現象が起きる前の春に行ったショッピングモールの風景が広がっていた。
 そしてこの場所は本棚がたくさん置かれている。その中には、本がたくさん敷き詰められている。ここは書店だ。
『す、すみません』
 僕の声が聞こえる。すると、
『こちらこそ……あれ?』
 彼女の声が聞こえた。これは、もしかしてあの日の出来事を映しているのか?
 ――彼って、入学式に私の教室の隅っこにいた……。
 すると、脳の中に入り込む様に声が聞こえた。
 まさか、これは楠野さんがその時に考えていた事?
『君ってもしかして、クラスの皆の顔、覚えない系?』
『いや、そうといえばそうなんだけど……』
『認めちゃうんだ』
 ――こんな人いるんだ……。私にはわからない世界だな。
 彼女はこう思っていたのだろうか。あの日、あの時、あの場所で。
 それから場面は学校の図書室に移り変わっていった。ここも、本がたくさん並んでいる。その中の作業で彼女が手を止めた。
 ――この本って、今の私の『肩書』の事が書かれているんだ……。
 そうして興味で、彼女はこの本を貸し出しコーナーの所にある椅子でじっくりと読んでいた。すると、横から僕の声が聞こえた。
『その本、何かな?』
 ――安曇くんって、こういう本も読むのかな?
 ただ、ただ胸が苦しかった。楠野さんが考えている時に脳に響く声は、
 いつもの彼女の様な軽さや明るさなんて、全くなかった。