それから走る足音が聞こえた。僕はその隙に逃げ出した。

 僕はそれから街を歩いていた。どこを行っても似たような景色しかない。この辺りは確かショッピングモールへ行くためにいつも通っていた所だったと思う。瓦礫とかで舗装された道はほとんど見えなくなっていたけど、恐らくそうだった筈だ。といっても確証はまったくない。
 ずっと歩いてはいるが、あの二人の話し声を聞いた以外では誰かの声が聞こえたとかは無かった。もし、生きている誰かと遭遇したら、僕は連れ戻されているかもしれない。
 それでも外に出たかった。
 彼女が今どこにいるか知りたい。
 彼女がどうしているか知りたい。
 彼女がどうなっているのか知りたい。
 どうしても、どうしても知りたい。理不尽な理由で彼女……楠野さんが死んでほしくなかった。こんな崩壊した街を彷徨ってでも、僕は彼女を見つけ出したい。
 すると、光が見えた。
「あそこって……」
 山の方から見えたのだ。それは、いつか一度行った事がある場所だ。
 そうだ、確か楠野さんと初めて出会ったあの日、買い物の帰りで不自然な光を見つけた僕はあの山の道を自転車で駆けのぼっていった事があった。その時は何も無かったけれど、一体何故光っているのだろう。
 僕はあの山を登る事にした。