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僕たちは楠野さんの家から出た後、元の道を辿って駅まで向かっていた。まだ、外は明るい陽に照らされていた。
「……」
けれど、僕たちはそんな天候とは真逆のどんよりとした空気を周りに帯び続けていた。
「やっぱり、美樹は……」
一つ一つの言葉が重かった。片桐さんはどうしても、楠野さんの母から告げられた事実を信じられない様だった。
それは僕だって同じだ。だけど、お互い何も話す気になれない。ただ淡々と元の道を辿って歩いていく。楠野さんが住んでいたあの閑静な住宅街から僕たちの姿は段々と消えて行ってどんどん人気の多い駅前の街に引き寄せられるように歩いて行っている様な……そんな気がした。それは、まるで受け入れられていない現実に自分から足を踏み入れている……そんな無謀な事をしているのではないかと思ってしまう程の事だった。
それは、来月彼女がこの世界から消えるという現実を受け入れていない僕たちの未熟な姿を非難しているのかもしれないし、それとも現実を受け入れられなくてもいいと励ましているのかもしれない。駅前の賑やかさは二つの意味を持っていて、持っていないという事なのかもしれない。
「私、帰る」
片桐さんはそう言って一人で人混みに消えて行った。一人取り残された僕はしばらくその場に立ち尽くしてから、自分の家に帰るために駅のホームに移動する事にした。