「美樹は小学校の時、一度ある男の子とゴタゴタがあって異性に少し苦手意識を持っている所もあったけれど、表向きではなんとか男の子と付き合えてたの。けれど、いつも異性からの告白をすぐに断ってしまうくらいには苦手だったあの子が、あなたには最初から苦手意識を持たなかったって言っていたわ」
 そこで、僕は少し考える。そういえば、学校での彼女はあれだけの知名度を誇るのに、誰かと付き合っていたという話を聞いた事がない。もしかしたら、楠野さんが付き合ってほしいと告白をずっと断り続けていたのではないのか。多分、楠野さんの母の話からはそんな事が思い浮かべた。
「おばさん、美樹ってそんなに男子に告白されていたの?」
 片桐さんが話に割って入ってくる。少し刺々しい空気を持って。
「そうみたい。いつも、私に話してくれていたわ」
「そう、なんですね……」
 その後、小さい声で「私の目を抜け出して告白していた奴がいたなんて……」と呟いていた。僕は隣だったので、良く聞こえた。
「だから、一郎くんには本当に感謝してます。彼女と一緒にいてくれて、ありがとう」
「は、はい……」
 そこで、何かおかしいと気づいた。
「……あの、楠野さんは……」
 それを言った時、楠野さんの母の顔が明らかに暗くなった事がわかった。その時、僕はやってしまったと心の中で思った。彼女は「やっぱり、美樹に会いに来てくれるために来たのね……」と言って、ある事実を告げた。
「ごめんなさい。美樹はもうここにはいないわ……」
 僕たちに残酷な事実を告げた楠野さんの母は、その後ただごめんなさいと言い続けていた。
「心配してくれてありがとう。けど、ごめんなさい……」