「あなたが安曇くんね。美樹から話は聞いてるわ」
 そういったやり取りが僕と楠野さんの母とともに繰り広げていた。片桐さんがその合間に入ってとりあえず家の中案内してくださいと言った事でこのやり取りは終わりを告げた。楠野さんの母は温かく家に迎い入れてくれた。
 僕が初めて女子の家に入って思った事は、とても清潔な空気感を持ったリビングに僕みたいな男子ではありえない様な可愛げな装飾が部屋の隅だったり壁だったりに飾り付けられている事だった。
 これは、楠野さんがまだ幼稚園ぐらいの頃に楠野さん自身が自分で装飾したものをそのまま今でも飾り付けられていると片桐さんは話してくれた。だからなのか、新しいもの特有の空気感は一切なく、逆に昔懐かしの温かい空間がこのリビングに穏やかな匂いを漂い続けていたのをなんとなく感じた。家での楠野さんがこんな感じだったのかな? と言った想像力も引き立たせてくれる。
「ごめんなさい。大したおもてなしもできなくて」
 いえ、と僕はつい釈明をする。そんなの、急に来た僕たちが悪いのだからそんな謝らなくてもと思ったからだ。
 楠野さんの母はちょっとしたお菓子と、お茶を入れてくれた。隣にはジュースの大きいペットボトルもある。という事は、もしかしてと思い聞いてみたらその予感通りこれはお茶以外が飲みたくなったらここにジュースを置いておくから好きに使ってほしいという事だった。僕はその気遣いがとても有り難いと共にどこか悲しい気分にもさせた。
「……美樹は、今年に入ってからいつもあなたの事を話してたわ」
 少し隣にいる片桐さんの視線が痛かった。多分、これはただの妬みなのではとなんとなく勘付いた。
「は、はい」