「……あんた、どうしたの？」
「ちょっと、楠野さんの家に行こうとしてたんだ」
　希望の糸が僕の目の前に現れた。彼女は苦手だけれど、正直今片桐さんと出会ったのは運が良かった。
「……もしかしてあんた美樹の家知らないの？」
　いきなりそう聞いてきた彼女は凄まじく威圧的な態度だった。僕は萎縮しながらも、そうですと答える。すると、彼女は呆れた様に「私、正直嫌よ」と答え、僕に何も言わせないつもりか言い続ける。
「花火大会で何かあったから謝りに行くの？　ていう事は何かやらかしたという事なんでしょ」
　事情を知らない片桐さんからすれば、間違いなくどういう光景を思い浮かべているか察しが付く。僕たちが喧嘩別れしたのではないかと邪推している。それはある意味仕方のない事かもしれない。けれど、事は重大な事なのだ。もしかしたら、楠野さんが死んでしまうかもしれない程の重大な事。
「と、とにかく教えてほしいんだ！　じゃないと」
　そうして、僕は決定的な事を言ってしまった。
「楠野さんの命が危ないかもしれないんだ！」

　それを聞いた片桐さんは血相を変えて、とりあえず人のいない場所へと僕を誘導した。そうして、人気のない大通りの外れの隅を選んで、僕はこうして楠野さんの家まで行く経緯を話した。
「嘘、美樹がそんな事言ってたの？！」
　無論、こんな現実的ではない話を信じるのは難しい。
「世界少女は、ニュースでもやってる」
「知ってる！　知ってるけど！　何で美樹が？！」
　僕も同じ気持ちだった。何故、楠野さんがそんな事を言うのだろう。僕たちには一切理解できない。けれど、彼女が世界少女ということを裏付ける証拠はない。ただ、世界少女の可能性があるという事を挙げたら。