「そういえばさ、あの人の本で初めて読んだのって何なの?」
「えっと……確か、あれだ」
 僕はあの作家さんの作品で初めて読んだものを挙げた。その作品はあの人にとって6作目になる青春小説だった筈だ。僕がその作品の名前を挙げると楠野さんは「ああ~」と声を張り上げる。
「私もその作品が初めてだったよ!」
「本当に? すごい偶然だね」
 楠野さんも僕と同じ本からあの作者さんの本にのめり込む様になったという共通点を聞いて感嘆の声を漏らす。
「あははっ、そうかも?」
 笑いながら、楠野さんは僕に同意した。女子とあまり会話をした事の無い僕だけれど、楠野さんと話している時はとても心地よく楽しい時間だと実感できる。それくらい彼女との会話は濃い経験だとも言えた。
「さて、とそろそろ着くよ」
 僕の知っている限りだと、このストリートから外に出た先で楠野さんの待ち合わせ場所の印である噴水機がある筈だ。それは何度もこのショッピングモールに来た事のあるから大体の道を把握できているからだ。
「あ~? 美樹!」
 すると、突然叫び声がしてきた。声のした方を向くと、同じくらいの歳の女子がこちらに向かって走り出してきた。
「美樹! ちょっと遅かったよ?」
 やや荒々しい口調で楠野さんを叱りつけるに言った彼女は多分、ここで待ち合わせした人だと思う。
「ごめん、道に迷っちゃって」
「やっぱり迷ってるじゃない!」
 彼女の口ぶりからすると、待ち合わせ場所を決める際に迷わないから大丈夫だと楠野さんは意気込んでいた様だ。楠野さんは、あまりの容赦のない突っ込みに少し肩をすくめていた。
「あ、でも彼に案内してもらったからなんとかたどり着いたんだけどね」
「え? 彼って……」