そう言った楠野さんは笑顔を見せた。その笑顔が僕にはとても眩しいものがあって思わず口元が緩んでしまっているだろう。すると、楠野さんはベンチから立つと、目の前の転落防止用の柵に全身を預けた。
「……最初に出会った時って、確か本屋さんだったよね?」
 不意に、彼女はこんな事は聞いてきた。
「……そうだったね」
 僕はただ、それだけ返した。
「実はさ、」
 それから彼女が話した事は、最初に出会った時の事。最初はどう思っていたかだった。僕は最初のそれを聞いて少し、イラッとは来たがすぐに思い返して許す事にした。楠野さんが僕に対して抱いていた最初の印象は思ったよりひどかった。
「でも、安曇くんって結構優しい。そういう本心から優しい人を見ると、私の心は少し傷ついてしまうかもしれないな」
 まるで、彼女は自分の本音の様に語っていた。それは、僕の心の底からのやさしさ、温かさ。それらが自分よりももっと凄いものだという事をなんとなく察知していたらしい。けれど、本当はそんなに優しくはない。
 僕はフッと今は何時だろうと確認した。もうそろそろ花火が打ち上がる時間だった。
「もうすぐ、打ち上がるって」
「……そっか」
 すると、楠野さんは全身を預けていた柵から離れて元のベンチに座る。僕はベンチの横に立っていた。
「時々、思うの。安曇くんに無理させていないかって」
「え……」
 彼女がそう言ったのは意外にも驚いてしまった。
「私、何も言えてない。だから、私は今ここで本当の事を話します」