そうして、会計を済ませてレジ袋に今日買ったものを入れていざ帰ろうとしていた、その時だった。僕は彼女……楠野さんを見かけた。案内表をじっくりと見て悩んでいる所を人混みの合間からはっきりとわかった。
あれは、楠野さんだとはっきりとわかったのだ。
「あのっ、楠野さん……」
気になった僕は楠野さんに声を掛けてみた。すると、楠野さんはこちらの声を聞くなりこちらの目の前に走って移動してくる。
「安曇くん!」
肩を掴まれて、泣きそうな顔でこちらに訴えかけてくる。唐突にそんな事をしてくるなんて、一体どうしたんだと思わず言いかけたが、抑えて平常を装って次の言葉をひねり出す。
「……どうしたんですか?」
「道、わからないの? 教えて」
彼女は迷子になっていた。聞けば、友達と待ち合わせをしていたのだけれど、道が複雑過ぎてわからないという事だった。その経緯を聞いて僕は多分彼女が方向音痴なのだとなんとなく察した。
確かにちょっと構造が複雑ではあるが、噴水機が設置されていてとてもわかりやすい目印になる場所が待ち合わせ場所と言う事だ。
そういう訳で、僕はその場所を教えたのだが……、
「わざわざ一緒に来てくれてありがと」
「う、うん……別に」
流れで僕が道案内する事になっていたのだ。早く帰らなければいつまで経っても帰ってこない事に心配するだろうと思ってはいるのだけど、どうも楠野さんがここに来る事はあまりないから一緒に来てほしいとせがまれたのを断れなかったための結果だ。
ちなみに、楠野さんに住んでいる場所はどこなのかと聞いてみたら、ここから2、3駅程離れた街に住んでいるという事だった。それならば、このショッピングモールに来た事が無くても仕方ないだろう。2、3駅離れた楠野さんの住んでいる街にはここよりも大きいショッピングモールがあるのだから。僕は行った事はないけれど、楠野さんは既に何度か行っていて、結構なお店の数があると道案内の最中に話していた。