僕は本の整理をしつつ、彼女の様子を窺う事にした。今整理している場所からだと貸し出しコーナーはほとんど見えないので、場所を移動して時々確認する。時間にして3分程のタイミングだ。楠野さんはのんきそうに腕を頭の後ろに組んで退屈している様子だった。楠野さんは最初に僕たちが出会うきっかけを作った著者の本以外は読まない。
 それは最初の頃に図書委員の集まりがあった時だ。
 1ヵ月に一度程各クラスの図書委員が集まるタイミングがある。最初の集まりの時に皆がごそごぞと話している様子が見た。皆、僕の隣に目線を集めていた。
「なんかさ、皆私の噂よくするんだよね」
 それに対して彼女はこう言っていた。同じクラスになった時に多田から楠野さんの事は聞いていたけれど、まさかここまでの有名人だとは思わなかった。それは、僕から見て彼女は何かしら特別なもの等を持たない正に普通の少女の様に見えたからだ。
「そ、そうだ。楠野さんって本読むの?」
「あ、実は私……」
 そうして楠野さんはあの本の作者の名前を挙げて、それ以外の本はあまり読んだことが無いと答えた事で、楠野さんがあの著者の人だけを追いかけている事を初めて知る事になった。楠野さんは何故その人だけ? と聞かれた際に、「私は一筋派だから」と答えになっているのかわからない答えを返した。
 いや、多分答えにはなっているのだろうけど、それがどういう意味なのかあやふやなだけだろう。彼女はあの著者の本が好きなのであって、それ以外の人の本は基本的に見ないと言った。それは、多分あの人が彼女にとって特別なのだという事を実感させてくるものだった。