それは、毎日の事だ。毎日この夕日の下で僕……僕らはこの地面の上を歩いている。僕の横を興味もなく通り過ぎるやや年上のお兄さん、ゆっくりとゆっくりと一歩を重ねていくお婆さん、お店の中で何やら雑談をして盛り上がっている女子二人組。
 これが僕らの日常で、これが何ともない日常。
 この世界が“たった一つ”の存在で命運が決まってしまう事。
 それは、恐ろしい事なのかもしれない。

「安曇くん」
 7月の図書委員の仕事ももう終わりである今日。楠野さんがなにげなく普通に話しかけてきた。それ自体は特に問題ない。
「なに?」
「最近、安曇くん考え事してたりする?」
 いきなりの事で意表を突かれる。彼女が何故そんな事を聞いてきたんだろう。もしかしたら、最近楠野さんの事で悩んでいる時に楠野さんがそれを見てまさかと勘付かれたのか。
「特に、何も」
 楠野さんは疑り深い表情でこちらをじっくり見つめると、「そっか」と言って今日、元々楠野さんが担当していた本の貸し出しコーナーに戻っていった。
「でも、一人で悩むより誰かに頼った方がいいかも」
 去り際に楠野さんはそう言い捨てた。
 まるで、自分に言い聞かせているかの様な口調だった。
 もしかして、最近楠野さんがどこか元気ないのはそう言った事なのだろうか。