楠野さんはそれを聞くと、急ぎ足で歩いて図書室の出入り口まで行ってしまった。僕はそれに対して何のリアクションも返せないままだった。しかし、片桐さんに呼ばれていたと言っていたのが気になる。まさか僕との関係を怪しまれていたりするのだろうか。彼女も忙しい性格をしていると思う。
 それからは、彼女との会話は無く学校での一日の終わりが着実に近づいて行った。楠野さんとの会話は図書室以外ではあまりないのが普通ではあるのだけど。
 けれど、その何も無いというのか息苦しくて気になってしまう所だ。彼女は相変わらず元気そうに振る舞っているけれど、授業が終わるとぐったりと机に突っ伏しているのを見ると、やはり元気がないのだろうと思っている。

 放課後。僕はしばらく時間を置いて、一人で下駄箱の所まで行く。いつも大勢の中を帰っていくのは疲れてしまうので、こうして時間を置いて帰宅を始めている。
 幸い、今日は下駄箱には誰もいなかった。僕はその事に安堵しつつ、自分の下駄箱から靴を出して下履きと履き替える。下履きを代わりに下駄箱に入れると、僕は駐輪所で自転車のハンドルを持ってそのまま校門へと足を運ばせた。
 校門を抜けるとそこには町が広がっている。横に広がっている歩道の上を歩く。歩道から一歩外せばそこは交通量の多い道路に降り立つ。もちろんそんな危険な行為はしないわけだけれど。
 僕は歩道をコツコツと足音を僅かに立てつつ、自転車を押して歩いている。なんとなく今日はゆっくりと帰りたかった。だからわざわざ自転車に乗らず、歩く事にした。
 空は微妙に赤みがかかり始めている。