意外だった。彼女が僕と同じ人の本をいつも買っているという共通点があった事だとても。
「安曇くんはこの本買うために来たの?」
 そう聞かれた事で思い出す。僕は親に買い物を頼まれてここに来ていたんだ。彼女には悪いけど、こんなところで油を売っている場合ではない。
「そうだ。僕、母さんに買い物頼まれてたんだ。それで、次いでに本を買おうかなって思ってきたんだけど……」
「へえ、そうだったんだ。ごめんね、邪魔して」
 いや、大丈夫だよとフォローする。そうして、僕はそれじゃと言って真っ先に本を手に取ってその場から立ち去った。
 しかし、彼女とまさかこんな場所で会うだなんて。そういえば、楠野さんは帰り際に何か話そうとしていたけれど、一体何を話そうとしていたのかは聞けなかった。
 ……まあ、僕にはあまり関係の無い事を話そうと思ったのだろう。彼女が止める事は無かったし、そうと考えたら名残惜しさも少し減った。書店のレジで会計を済ませた僕は、急いで1階の食品売り場まで行って親から頼まれたものを買いに行く事にした。
 親から頼まれた商品は結構ある。メモに書かれた内容を見て、今日はカレーを作るんだな、と僕は察した。まあ、実際にどんなものが出るのかは楽しみにして置いておこう。
 僕は食品コーナーを探してメモに書かれていた食材をカートに乗せたカゴの中に入れる。少しずつカゴの中にある食材を見ると、なんだか今日の夕食が楽しみになっていく。そのためにも、そこそこ早めに帰らなければと僕は思っている所だった。
 一つ苦戦したのはカレールーをどれにするかという割とどうでもいいところだった。メモにはどのカレールーなのか指定がなかったので悩んだ挙げ句、適当な中辛のカレールーを手に取った。