いや、けれど彼女にとってその事はタブーなのかもしれない。一概に決めつける訳にもいかない。聞く事はできなくもない。けれど、聞いたところで彼女が答えるかどうかはわからない。もしかしたら、答えたとしても本当の事を言わないのかもしれない。どう答えるかは彼女の自由なのだから。
 だから、僕はそれを口に出す事ができない。もし嘘を付かれたとしたらとても悲しい事ではあるし、何も答えなかったら無駄に不安が増すかもしれない。そう考えると、口に出すのもためらってしまう。
「安曇くん?」
 後ろから楠野さんが心配の声を掛けてくる。どうやら、作業中に手が止まっている様子を見て心配しているみたいだ。
「……あぁ、なんでもないよ」
 嘘だ。本当は君の事で悩んでいる。
 けれど、僕はそれを口に出す事なんてできない。
「……そっか。それじゃあ、続けよう」
 楠野さんは一瞬、怪しいと言わんばかりの素振りを見せてきたが、すぐに切り替えて自分の仕事に戻っていく。
 その姿を見て、僕はただ思う。
 彼女は、もしかしたら秘密があるかもしれない。
 それも、大きな秘密を。
 僕は本棚の整理を終える。その中にこの間楠野さんが渡してくれた本は無かった。それならば、と僕は探してみる事にする。
 『世界は「」で出来ている』という題名だった筈だ。
 けれど、その本はどの本棚を探しても無かった。
 それじゃあ、あの本は一体何だったのだろう。本人に聞いてみる事にする。
「楠野さん」
「なに?」