多分、多田は何も知らない。昨日僕たちがお出かけをしていたという事を。僕たち二人の間ではお出かけという事にはなっている――と思うが、楠野さんはどうかわからない――が、あれは他人の目から見たら、仲の良いカップルがデートをしているようにしか見えない。というか、あれはデートだ。
「ああ、いや……ちょっと進展、したかな……」
 そんな事を教室で話す事も出来ず、僕はただ誤魔化すしかなかった。
「そっか、進展したのか」
 多田は僕の反応に何も疑問を促す事なく何故かそれだけで納得しているようだった。しかし、多田は一体何も考えているのか……。他人の心なんて読めるわけが無いので、僕にはわからない。
 もしかしたら、付き合い始めただなんて思っているのかもしれない。
 それはなんだか、恥ずかしい。
「まあ、本当の所、どうかは聞かないで置いとくわ。んじゃあな」
 そう言って多田は自分の席に戻っていた。それは何だか釈然としない会話の断ち切られ方だ。
 そこに、さっきの話題に出てきた楠野さんが教室に入ってくる。もうすでに教室に居た何人かは楠野さんが来るなり、彼女の元に集まって雑談を始める様子がうかがえた。
「ミッキー、私こんないいアクセゲットしたんだけど~」
「わあ! そのアクセサリー可愛いねぇ!」
 クラスメイトと雑談をしている楠野さんはどことなく楽しげであり、昨日の事が嘘だったかのようにも思えた。後、楠野さんの事をミッキーという友人もいるのか……。
 けれどあの時、『世界少女』という単語を口にしたときの彼女の反応……明らかにおかしかった。一体あれはなんだったのだろうか。
 それは、一旦置いておこう。僕は窓から見える雲に覆い尽くされていく青空を眺めながら、今日の予定を頭の中で記していく事にした。