それもそうか、と笑いながら楠野さんは答えた。楠野さんは僕とは違って人望みたいな……そんなものがある。それは形にはないけど、たしかに彼女にはそういったものがあるのだ。
 クラスの中で割と目立つ存在である彼女は、不思議と邪見な扱いを受けない。そこが彼女の凄い所だ。

 ……まあ、そんな人望がたまに僕に災いを降りかからせたりする。
 今日の放課後、下駄箱の所までやってきた僕の所に、この間の彼女が現れたのだ。
「あんた、最近美樹と仲良さそうじゃない」
「え、え……と」
 はっきりしなさいよと言わんばかりの呆れ顔でこちらを睨み付けてくる少女……この間楠野さんが待ち合わせしていた相手である片桐筑音さんだ。
「もしかして、美樹の事狙ってる?」
 いやそんな訳ないだろと言わせる前に彼女はずかずかと前進してくる。僕は思わず後ずさりをする。まさか、放課後の下校門の前で片桐さんに待ち伏せされているなんて思いもしなかった。……いや、最初に出会った時に僕の事を訝しんでいた彼女が問い詰めてくるなんてことありえたかもしれないけど、それでもわざわざ待ち伏せしてくるだなんて考えられなかった。
「とりあえず、彼女にあんまり深く関わらないでよ! なんか急に仲良くなってる所が怪しいの?」
 あまりにも口を開かない僕にしびれを切らしたのか、そう言って片桐さんは下校門を抜けて行った。色々と何だったんだと思ったが、それを今考えても仕方ない。僕はそのまま家まで帰る事にした。

  *

 それから、図書室での日々は決定的になっていった。一週間の内に最低1回、多くても2回しかない図書委員の仕事だけど、その数少ない回数の中で僕と、楠野さんは会話を重ねて行った。