僕が彼女に出会った日。
 その日はとても快晴で、春という季節にとても相応しい日だった。僕はそんな日に親から買い物の代行を任されて一人でショッピングモールに来ていた。まだ学校も2年目が始まってから初めての休日に買い物の代行というのを頼むのは無神経だ、とは思いつつも親から直々に頼まれたら断りづらかった。その上、用事さえ済ませてくれれば後は好きにしていいという条件を指定されたので、引き受ける以外の選択肢は僕の中から完全に消滅した。
 僕は自転車を走らせて家から一番近くて大きいショッピングモールまでやってきた。休日の昼間というだけあって、たくさんの人がこの中にいる事が駐輪場の自転車の数を見るだけでもひしひしと伝わる。
 しかし、僕は遊ぶために来たわけではない。まず、親に買い物を頼まれている。まずはそれを実行してから……とは思ったものの、僕には近日中に行こうと思っていた買い物があった。
 それは、好きな作家の新作を買うという事だった。

 そういった経緯で僕は書店まで足を運んだ。書店の中は外の賑わいと比べると、断然静かだと言える。僕は目的の本を探す事にした。本棚にぎっしりと詰まった新刊のコーナーに足を運んだ僕は、その目的の本を見つける。
「あった……」
 そうして、手に取ろうとした時だった。隣から手が出てきたのだ。僕は慌てて手を引っ込める。
「す、すみません……」
「こちらこそ……あれ?」
 手を伸ばしてきた彼女はこちらを見て驚く仕草を見せた。僕は何故その仕草をしたのかがわからなかった。
「あなた……安曇くん、だよね?」
 しかも、こちらの苗字を言い当ててきた。一体どこで知ったのだろう。