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春休みになると、部活で四月から入ってくる新入生の、体験入部が始まる。
冬の間あまり泳げていなくて、足を引っ張りそうだったけれど、私も顔を出すことになった。
うちの水泳部は特別強豪というわけではないし、設備も並だ。水泳をやるに当たって、特別魅力的な環境ではない。
だから毎年部員はさして多くもないし、途中で辞めていく人も少なくない。
それでも泳ぐことが本当に好きなやつだけが最後まで残って、毎年部をかろうじて存続させている。
練習に出る前、新入生の一人に声をかけられた。同じ中学の後輩で、水泳部も同じだった比嘉さんだった。
「和佳先輩。お久しぶりです」
その顔は、やや強張っている。私の顔は、きっともっと強張っている。
「辞めなかったんですね、水泳」
そう言われて、私は少しうつむいた。
自分が水泳を辞めると言った記憶はない。けれど入学するとき、高校ではやらないつもりでいたことを考えれば、似たようなものかもしれない。
結局今でも、私の泳ぎは中途半端だと思う。中学の頃だって、全力で泳げていたのかどうか、自信がない。
それでも、この部に三年まで残ろうとしている。つまりそういうことだろ、とこないだ佐島に言われた意味は、まだよくわかっていなかった。
「……辞めないよ。私には、水泳くらいしかないもの」
ぽつりとそれだけ言うと、比嘉さんはわずかに顔をほころばせた。
「よかったです。あのときの和佳先輩、ちょっとおかしかったから……」
「あのとき?」
「いえ、いいんです」
比嘉さんは慌てたように手を振った。
プールサイドの扉が開いて、顧問がやってきた。そろそろ練習が始まる。
「比嘉さんも、うちに入るんだね」
「はい。家、近いですし」
「うちの水泳部、そんなに強くないよ」
「私が強くしますよ」
「そっか。心強いね」
私がそうコメントすると、比嘉さんは目を細めた。
「なんか和佳先輩、やっぱりちょっと変わりました?」
私は首を傾げる。
「そうかな……あんまり、変わってない気がするんだけど」
そう言うと、お腹の中で何かがぽんと跳ねた気がした。
「最近、なんかお腹がうるさくて。もっと笑えって」
そうこぼすと、なぜか比嘉さんが可笑しそうに笑い出した。
「大丈夫。ちゃんと笑ってますよ、和佳先輩。というかなんだか前より、しっかり笑うようになった気がします」
言われて私は、自分の頬を押さえた。確かに少し、頬が上がっているような気がした。