思い返すと、どこから好きだったのか、私にはわからない。
秀とは家が近所で、小さい頃からよく一緒に遊んでいて、学校付き合いというよりはご近所付き合いとしての印象が強い。
親同士も顔見知りだし、普通に生活してたら、ちょっとコンビニ行っただけで出くわすことだってある。
だからなんていうか、結構油断してる姿も見られてるし、なんなら子供の頃には一緒にお風呂だって入ってるし、今さら……惚れた腫れたをやるような関係なんて、縁がないと思っていた。
別に、かっこいいなんて思ったこともないし。
でもそういえば、中学のときから、後輩の女の子には人気があったんだ。
背が高いだけじゃん、と私は馬鹿にしていたけど、サッカー上手いし、勉強もできるし、友だちだって多かった。クラスにも女子の友だちはたくさんいたような気がする。
私とか和佳とばっかりしゃべってるイメージが強くて、真剣に考えたことなかったけど……。
考え事をしているうちに、大通りの信号が変わる。
あんなことを言った手前、駅の方まで歩いてきていた。
ご近所付き合いっていうのは厄介で、これで家が遠くなら駅の方行くフリだけして五分後に引き返せばいいんだけど、今普通に帰ったら絶対近所の誰かに見られるし、その情報は巡り巡って秀の耳に入る可能性がある。
別に最初から嘘だって見え透いているんだけど……なんの意地だか、私は本当に駅の方まで歩いていって、特に意味もなく繁華街をふらついた。
焼けついたアスファルトはそれ自体が熱を発して、足元からじわじわと世界を蒸し焼きにする。
日陰と涼を求めてスーパーの中に入り、地下の食品売り場でサイダーを買って外に出る。
みるみる汗をかいていくペットボトルを頬に当てながら、商店街を端から端まで歩いて、また意味もなく引き返す。
それとなく訊いてみるなんて言ったけど、秀が訊けないなら、私がいったいなにを訊けるって言うんだろう。
そもそも秀の思い込みじゃないのか。
高校に入ってから、私よりは確実に秀の方が、和佳といる時間は長い。
だから私が感じ取れない和佳の感情の機微にも気づけるのかもしれないけど、秀が言っていることは、普段の和佳の特徴として特別違和感を覚えるものじゃない。
やっぱり喧嘩でもしたのかな。
してない、と秀は言ったけど、あいつ、自分では喧嘩してないつもりで、なんか和佳を怒らせたんじゃないか。
それで和佳に避けられてるのを「本音を話してくれない」とか勝手に変換してるんじゃないのか。
ペットボトルの蓋をひねると、勢いよく炭酸が泡だって、それとなく口をつけたらぬるくてげんなりした。
気がつくと日が暮れかけている。
スマホの時間は午後六時半を示している。
空の端が、茜色と宵闇のグラデーションで綺麗に染まっている。
そのままアプリを起動して、和佳宛てにメッセージを打った。
「最近調子どう?」
送信ボタンの上で指が止まる。
なんだこれ。
こんなメッセージ送ったことない。
探りを入れている感が見え見えだ。
頭の回転がはやい和佳なら、秀の根回しだとすぐに気づく。
「週末暇? 久しぶりに二人でどっかいこーよ。秀はお留守番で」
結局そう打ち直した。
メールで探りを入れるより、直に訊いた方がいい。
それにまあ、和佳と二人で、っていうのは確かに久しぶりだった。秀に言われたことを除けば特別話したいこともないけど、話したいことなんかなくたって、会いたいって思うのは自由だ。
送信ボタンを押してから、空を見上げると、夕焼けに覆い被さるようにして、夏の蒸し暑い夜がやってこようとしていた。
秀とは家が近所で、小さい頃からよく一緒に遊んでいて、学校付き合いというよりはご近所付き合いとしての印象が強い。
親同士も顔見知りだし、普通に生活してたら、ちょっとコンビニ行っただけで出くわすことだってある。
だからなんていうか、結構油断してる姿も見られてるし、なんなら子供の頃には一緒にお風呂だって入ってるし、今さら……惚れた腫れたをやるような関係なんて、縁がないと思っていた。
別に、かっこいいなんて思ったこともないし。
でもそういえば、中学のときから、後輩の女の子には人気があったんだ。
背が高いだけじゃん、と私は馬鹿にしていたけど、サッカー上手いし、勉強もできるし、友だちだって多かった。クラスにも女子の友だちはたくさんいたような気がする。
私とか和佳とばっかりしゃべってるイメージが強くて、真剣に考えたことなかったけど……。
考え事をしているうちに、大通りの信号が変わる。
あんなことを言った手前、駅の方まで歩いてきていた。
ご近所付き合いっていうのは厄介で、これで家が遠くなら駅の方行くフリだけして五分後に引き返せばいいんだけど、今普通に帰ったら絶対近所の誰かに見られるし、その情報は巡り巡って秀の耳に入る可能性がある。
別に最初から嘘だって見え透いているんだけど……なんの意地だか、私は本当に駅の方まで歩いていって、特に意味もなく繁華街をふらついた。
焼けついたアスファルトはそれ自体が熱を発して、足元からじわじわと世界を蒸し焼きにする。
日陰と涼を求めてスーパーの中に入り、地下の食品売り場でサイダーを買って外に出る。
みるみる汗をかいていくペットボトルを頬に当てながら、商店街を端から端まで歩いて、また意味もなく引き返す。
それとなく訊いてみるなんて言ったけど、秀が訊けないなら、私がいったいなにを訊けるって言うんだろう。
そもそも秀の思い込みじゃないのか。
高校に入ってから、私よりは確実に秀の方が、和佳といる時間は長い。
だから私が感じ取れない和佳の感情の機微にも気づけるのかもしれないけど、秀が言っていることは、普段の和佳の特徴として特別違和感を覚えるものじゃない。
やっぱり喧嘩でもしたのかな。
してない、と秀は言ったけど、あいつ、自分では喧嘩してないつもりで、なんか和佳を怒らせたんじゃないか。
それで和佳に避けられてるのを「本音を話してくれない」とか勝手に変換してるんじゃないのか。
ペットボトルの蓋をひねると、勢いよく炭酸が泡だって、それとなく口をつけたらぬるくてげんなりした。
気がつくと日が暮れかけている。
スマホの時間は午後六時半を示している。
空の端が、茜色と宵闇のグラデーションで綺麗に染まっている。
そのままアプリを起動して、和佳宛てにメッセージを打った。
「最近調子どう?」
送信ボタンの上で指が止まる。
なんだこれ。
こんなメッセージ送ったことない。
探りを入れている感が見え見えだ。
頭の回転がはやい和佳なら、秀の根回しだとすぐに気づく。
「週末暇? 久しぶりに二人でどっかいこーよ。秀はお留守番で」
結局そう打ち直した。
メールで探りを入れるより、直に訊いた方がいい。
それにまあ、和佳と二人で、っていうのは確かに久しぶりだった。秀に言われたことを除けば特別話したいこともないけど、話したいことなんかなくたって、会いたいって思うのは自由だ。
送信ボタンを押してから、空を見上げると、夕焼けに覆い被さるようにして、夏の蒸し暑い夜がやってこようとしていた。